no45...見下す者

 まずいまずい……。マジの半分こおばさんじゃん……。王子も心臓貫かれちゃったし、大丈夫かな? 大丈夫じゃないよね……。


『リナティスよ。なぜ貴様が黒カグラと……』


『む? その声、その剣……。《完全鑑定》』


 か、完全鑑定?! それ欲しい……。

 魔剣カグラ、いやリナティスがうちの神剣カグラの鑑定を終えると高笑いが飛んだ。


『オーホホホ! これは愉快! まさかマサラ。其方も剣になっていたとはな』


『答えよ、リナティス。なぜ黒カグラと混ざった。なぜこの時代に現れた。貴様の目的はなんだ』


 破壊すべき黒カグラと、マサラが死ぬことになった張本人のリナティス。カグラの二つの目的が一つになった。


『よかろう。今は気分が良い、見せてやろう。妾の過去を《記憶配信》」


 すると、大型のスクリーンが空に現れて、映像が流れ始めた。


 よし、カグラが上手く話を長引かせた。今のうちに王子を回復させないと……。


 ベネッサの胸の中で横たわるフェルリオル王子は、回復薬によって穴の空いた組織が塞がり始めている。でも、心臓を貫かれたんだよ? 素人目にはもう完全に助からないほどの致命傷に見えるけど……。あとは回復薬の効果を信じるしかない。


――「オーホホホ! まさか妾一人で落とせるとはな。この力、すばらしい」


 巨大スクリーンからリナティスの声が聞こえてきた。


 映像の中ではリナティスが魔剣カグラを持って丘に立っている。その眼下には黒い煙があちこちから上がり、燃え盛る街が見えた。


「リナティス女王! もうおやめ下さい!」


 一人の金色の鎧を着た騎士が、紫色の髪をした若い女性に剣を突きつけて迫っている。すごくベネッサに似てるけど、どこか違う。昔の流行りなのか、髪型が縦ロールではなく髪はストレートで腰まである。


「騎士団長ドラストリア……。なんの真似かしら?」


「もう我々は貴様の暴挙にはついていけん! 今すぐ自害しろ! さもなくば其方の娘、ベイリール様の命はないぞ!」


 ああ、あれがリナティス女王の娘さんなんだ。こっちもベネッサに似てるね。やはり血筋なのかな?


「いいのか? 妾がベイリールごと貴様らを殺せば済む話ではないか?」


「くっ! 貴様ァ!」


「凍りなさい《アイスエイジ》」


 リナティスが魔剣カグラを振ると、辺り一面が凍った。二百人はいたであろう騎士団は一人残らず氷漬けに……。いやただ一人、ベイリールを残して……。


「おいでベイリール。怖かっただろう」


「お母様……」


「お母さんが新しい民を用意してあげるからね」


 ベイリールは凍った騎士団達から離れ、リナティスの元へ駆け寄って抱きついた。リナティスにも愛すべき家族がいたのだ。


「お母様! ごめんなさい!」


「……うっ! ベイ、リール……?」


 リナティスから離れたベイリールの手にはナイフが握られていた。リナティスの視線が下がると腹部からは血が滲み出してきた。


「そんな……。ベイリール、どうして……」


「ごめんなさい! お母さん! でもこうしないと! 世界中のみんなが不幸になるから!」

 涙ながらに訴えるベイリールは、リナティスが。お母さんが好きなんだろう。好きだからこそ、殺戮を止めたかった。最後の家族として……。


「ごふっ、この…….親不孝者が! 《インフェルノボム!》」


「きゃああああーー!」


 ドガーン!と耳をつんざくような大爆発が起き、ベイリールは崖から落ちていった。致命傷を受けたリナティスはその場にうずくまると、自らにカグラの剣先を向けた。


「くっ。はぁはぁ……。妾に死など無いっ!《上級回復魔法:エリクシル》」


 魔剣カグラのスキルにより、リナティスの傷が塞がっていく。魔剣カグラを持ったリナティスには、死さえ無縁だ。


「ふぅ……。思い通りにいかない世界など一度破壊してくれ……。ぐっ!」


 魔剣カグラにより傷が治ったリナティスだったが、何かがおかしい……。身体がふらふらして視線も定まらない。


「まさか毒?! あの子、刃に毒を?!《完全解毒魔法:オールデトクス》」


 リナティスは、カグラを使って解毒を試みるも、一向に死の足音は止まらない。


「はぁはぁ、毒じゃない? なにが起きてるというの?! 《完全鑑定》」


 自らの状態を確認したリナティスは戦慄した。


 何故なら――


「状態:離魂中……? バカな……。魂が抜かれようしているの?!」


 魂が抜ける薬。

 それこそ、ベイリールが刃に塗った毒だった。


「離魂を止めるスキルなんて無い……。どうすれば、どうすれば妾は生きられる?!」


 リナティスは鑑定で、魔剣カグラの持つスキル一覧から助かる道をは探す……。そして答えを見つけた。


「魂乃精錬? 魂を糧に剣を鍛える……か。これに賭けてみるしかない……」


 リナティスは自らの胸にカグラを突き立てると、魂乃精錬を行い、そこで意識は切れたのか映像は止まった――


『その後、ガイア帝国の生き残りにより、妾はこの城の地下に封印されていたようだ。騎士団と共に千年間もな』


(千年?! めちゃくちゃ前だ! どんくらいかは想像も付かないけど……)


『そしてそこの娘と王子よ。お前らは、ベイリールの子孫だね。まさかベイリールが生きながられえていたとは……』


 そうか、ベネッサのおばさんに当たるローゼリア様の子供の子供がフェルリオル王子か。だから二人とも固有スキルに《王家の血筋》を持っていて、カースアイの即死が効かなかったんだ。


『リナティスよ。ガイア帝国はもう滅びた。我々の時代は終わったのだ』


『滅んだなら、また新たな帝国を作るまでよ。今度こそ世界を統一してみせよう』


「そのような国、誰も望んでいません!」


 ベネッサがキッ!と魔剣カグラ・リナティスを睨みつける。


 リナティスがどれほど、恐ろしい思想を持ち、恐ろしい力を持っているかベネッサは知っている。でも、屈するわけにはいかない。民の運命を背負う者として。


「お前の作った国なんかいらねぇ!」

「そうだ! 滅んだ国の亡霊め!」

「さっさとあの世に帰れ!」

「くたばれババア!」


 リナティスの過去を見ていた群衆が、あちらこちらから声を上げた。


『ほぉ、ずいぶんと人間の質が落ちたものだ。労働力として、半分いれば良いな……』


 魔剣カグラが怪しく紫に光り出した。


 まるで空気が逃げたように、風が無くなった。


 星が呼吸を止めたのかと思うくらい静かになった。


 あ! やばいんじゃない……?


 いや! 確実にやばいよね?!


(半分こが来るぞーーーー!)


「みんな逃げて!」


『……万物、分断!』


 魔剣カグラ・リナティスがブン!と一振り振ると、紫の剣閃が一瞬走り、死刑場にいた群衆の半分が上半身と下半身に別れた。


(うえ、ぐろぉ……)


「な、なんだいまの……」


「嘘でしょ?」


『リナティスめ……」


 ルインもカルナセシルも恐怖で立てなくなり、膝を折った。無理もない。なんでも半分こにしちゃうリナティスの無敵のスキルだ。


「なんてことを……」


 ベネッサは怒りに震えると、そっとフェルリオルを床に寝かせ、涙を拭いて立ち上がった。


『我が子孫よ。悲しむ事はない。貴様らもすぐにあの世に送ってやろう』


「許さない……! 貴女だけはッ!」


 魔剣カグラ・リナティスがクルクルと回ると、ベネッサへ剣先を向けた。しかし、ベネッサは怯まない。愛する人を、民を傷つけたリナティスを許すわけにはいかないから。


「出ろ!《サモンテイム》ゾア・スライム!」


 聞いた事のないその名前に、真っ先に反応したのはルインだった。


「ベネッサ様! そのモンスターはダメです!」


 ルインが止めに入ったが、もう手遅れだった。ベネッサを中心にじわじわと闇が広がると、今まで見た事の無い黒い魔法陣が現れ、中からは真っ黒なスライムが現れた。


「民を守るのが上に立つ者の使命! リナティス! 貴女は王では無い!」


――配信累計時間:10時間55分


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