欲張り転生★ダンジョン最下層へ落とされた悪役令嬢は、喋る剣と配信しながら地上を目指します

no44...みんなのチカラ

　右手が空間に固定されていて身動きが取れない王子を横目に、マグルディンはベネッサへ標的を変えた。

「フェルリオル！　助けられるものなら助けてみよ！」

「くっ！　ベネッサ！　避けろ！」

　どうやらベネッサは私と交代〈スイッチ〉する気はないみたいだ。何かを狙っているのかマグルディンではなく、王子をじっと見ている。

「今度こそ死ね！　ベネッサ！　《ダークネスランス》+《ジュピテルサンダー》+《メテオアロー》」

　マグルディンの放った闇を纏った槍が、バチバチと弾ける雷球が、隕石のような熱い無数の矢が飛んでくる。とても避け切れる量ではない。

（ベネッサ！　どうする？　逃げる？）

「いえ、王子が動けぬ今。守っていては勝てません！　アサシンイーグル！　飛んで！」

　ベネッサは避けるのでもなく、迎撃するのでもなく、デタラメな量の魔法に向かって突っ込んだ。

（えー！　どうするの？！　どうするの？！）

「こうするのです！　《サモンテイム》アイアンゴーレム！」

　ベネッサは無数に飛んでくるマグルディンの魔法に向けて、アイアンゴーレムを召喚すると同時に飛び乗った。

「アイアンゴーレムは魔法耐性が高いのです！　《シンクロテイマー》」

　マグルディンに向かって落ちるアイアンゴーレムは背中を向けると、腕を空に向かってあげた。

「行きます！　インフェルノブレイズ！」

　落下中のアイアンゴーレムはその両手から大火力の熱線ビームを空に向かって放つと、そのままマグルディンに向かって高速落下した。

「なんだと？！」

「マグルディン！　覚悟なさい！」

　落下するアイアンゴーレムの背中に闇の槍や雷球やらがバチバチボコボコぶつかり、激しく装甲が変形するが勢いは変わらない。

「チッ！　なんて魔法耐性だ！　ならば！《鈍足空間》+《重力反転》」

「きゃあ！」

　魔剣カグラの魔法により、超重量の塊であるアイアンゴーレムが、ふわっと宙に浮いて落下が止まってしまった。

「フハハハハ！　所詮小娘の浅知恵よ！」

「それはどうかな」

　いつの間にか王子が空間停止させられていた右腕を自ら斬り落とし、左手で剣を持つとマグルディンに向かって走っていた。

「さすが私の妻になる女性だ。勝ち気でなくてはいかん」

　が、その動きは検知魔法の得意なマグルディンには、すべてお見通しだった。

「私を誰だと思っている？　検知魔法は私の得意中の得意！　コソコソ動こうが全ての動きを把握しておるわ！　バカめ！　《地面泥化》+《雷の暴風》+《アクアレーザー》」

「攻撃が単調だぞ！　マグルディン！」

　確かにマグルディンの魔法は直前攻撃ばかりだ。それを読んでいた王子は大きく左右に疾走。襲いくる魔法を次々と交わして、遂にはマグルディンへ接近。容赦なく剣を振りかぶった。

「マグルディン！　覚悟！」

「接近戦が苦手だと思うなよ！　《武器硬化》+《武器振動》+《切れ味向上》+《全属性付与》+《自動防御》」

「奥義――王命八剣」

　ギィイイイイン！と丸でノコギリで鉄を斬るような音が響き渡ると。

　王子の剣が折れ、宙に飛んだ。

「ハーハハハハ！　フェルリオルの首！　取ったりー！」

　マグルディンが王子へ襲いかかる。　王子、絶体絶命のピンチ……！

「ふ、マグルディン。お前の弱さは、今も昔も自分しか見てないところだ」

「なんだと？！　黙れッ……っ！」

　ズバッ！

「ぎゃぁあああああ！」

　叫んだのは、マグルディンだった。マグルディンの剣が王子の首へ届く前に、駆けつけたカルナセシルの剣が、魔剣カグラを持ったマグルディンの右腕ごと切り飛ばしたのだ。

「はぁはぁ、間に合った……。マグルディン様、貴方を拘束します。《ローズバインド》」

　地面から草の蔓《がにょきにょきと伸びてきて、マグルディンを縛り上げた。

「くっ！　バカな……。私の検知魔法には誰も……」

　カルナセシルの存在が、魔剣カグラを探し出すほどのマグルディンの検知魔法でも引っかからないのは無理もない。カルナセシルの指には、ベネッサの作った検知無効の指輪が装着されていた。

「はぁはぁ……。観念しろ。マグルディン」

　立ち上がった王子は、マグルディンに折れた剣を突きつけて、視線を群衆の方へ向けた。　そこでは配信スライムを通して、真実を知った群衆が怒りの声を上げている。

「マグルディンを死刑にしろ！」

「よくもネルフィム様に毒を！」

「ベネッサ様ー！　ネルフィム様を助けてくれてありがとー！」

「フェルトグランは、またルールを破って王子と逢瀬を重ねたのか？！」

「もういいじゃねぇかよ！　誰が誰を好きだろうがよ！」

　まだ全部は飲み込めてないみたいだけど、それは時間の問題だろう。みんなが王子の活躍を讃えてくれている。

（よかったよかったー！）

『あとは魔剣カグラの処理と……』

「フェルリオル王子ー！」

　マグルディンが魔剣カグラを失ったことで魔法が消失。アイアンゴーレムと共に落っこちたベネッサは、慌てて王子に駆け寄ってきた。無くなった王子の右腕が痛々しい。

　カルナセシルもベネッサに抱きつきたいのだろうが、ぐっと我慢している。

「王子、腕が……」

「なに、この国とベネッサを救った代償が腕一本なら、安いものだ」

「高位の回復術師を探しましょう。治るかもしれません」

「ベネッサ様ー！」

　遠くでルインが必死に走ってる。シャドウスパローも一緒だ。カルナセシルに置いていかれたっぽい……。彼女は足がめちゃくちゃ速いって話だもんね。

（それにしても私の出番なくてよかったぁ。私、スキル全然持ってないもん）

『いくらスキルを全部持っていたとしても、使う脳が無ければなは……』

（あ、またバカにしてるっ）

「はぁはぁ……。ベネッサさ……ま、お怪我は」

　ルインが息を切らせながらベネッサの元にやってきた。彼もずっと牢屋にいたからだろうか。いつもピチッとしてる洋服はボロボロで、髪型も酷くぐちゃくちゃだ。

「大丈夫よ。ルイン。迷惑をかけたわね。カルナセシルもありがとう」

　頬を掻きながら笑うカルナセシルは、すごく嬉しそうだ。ルインもなんとなく状況は把握してるみたいだけど、それでも頭には疑問がたくさん浮かんでいる。

「ベネッサ様は、確かに毒で死んだはずなのに、どうやって……」

「それは――」

　その時だった。マグルディンの腕と共に落ちていた魔剣カグラが、ふわりと宙に浮くと――。こちらに向かって急加速した。

（あ！　魔剣が！）

『ベネッサ避けろ！』

　速すぎる！　急加速した魔剣カグラは、捕縛されていたマグルディンの身体を貫き、その勢いのままベネッサへと迫った。

「ベネッサ！　がはっ！」

「王子……？」

　突如飛んできた魔剣カグラから守るため、フェルリオル王子がベネッサを突き飛ばすと、代わりに彼の心臓が貫かれた。

「う、嘘……。ど、どうしよう」

「バカな……。剣だけで動くだと……」

「ベ、ベネッサ様！　回復薬です！　早く王子に！」

　ルインから回復薬を受け取ると、ベネッサは急いで王子の傷口にぶっ掛けた。

　しかし、それを嘲笑うかのように、ふわりと血に塗れた魔剣カグラは、空を旋回して私達の元へ戻ってきた。カルナセシルが王子とベネッサの前に立ち、剣を構える。その表情には、また守れなかった事に対する悔しさが滲み出ていた。

『ほぉ、身を挺して守るとはな』

「け、剣が喋った？！」

　カルナセシルが驚くのも無理はない。私もびっくりしている。

（ねぇ、喋ってるけど、両刃のカグラって元々喋らないよね？）

『ああ、つまりあれは――』

『こんな若造や小娘にやられるとは、一興と思ったが……。やはり剣には使い手など不要だな』

「ゴハッ……。だ、誰だ……。貴様」

　フェルリオル王子が胸から流れる血を、ベネッサが必死に回復薬で治すが一向に血が止まらない。

『妾か？』

（え、この喋り方って、まさか……）

『奴も我と同じく、魔剣カグラに魂を精錬していたのか』

『妾は、ガイア帝国の女王。リナティス』

　マグルディンを倒したもの束の間……。私達の前には、新たな強敵。魔剣カグラ・リナティスが立ち塞がった。

――配信累計時間：１０時間３５分

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