no43...マグルディン

 地下神殿の階段を駆け上がると、ベネッサが大型の鳥モンスター【アサシンイーグル】を召喚。二人を乗せ、天井に空いた穴から地上へと飛び出した。


(まっぶしー!)


 視界いっぱいに広がる光! 久しぶりの青い空! 白い雲! 


 頬を撫でる空気を感じながら思いっきり空へ舞うと、地上では信じられない光景が広がっていた。


「なんてことを……」


(わお、めちゃくちゃだねー)


 眼下では、白く壮麗なレティーナ城は見るも無惨な姿になっていた。


 各領地が泊まる領塔は完全に崩壊しており、王族の居住区がある離宮も半壊。本殿に至ってはレーザー砲でも撃たれたような巨大な丸い穴が空いている。そのまま音のする方へ向かうと、処刑場では禍々しいオーラを放つ剣――。魔剣カグラを持ったマグルディンが群衆に向けて次々と魔法を放っていた。


「ちっ! なんて威力だ! リルト! ネルフィム! 気を抜くな!」


「ティナード様! 僕は大丈夫です! ネルフィム様をお守りください!」


「くぅう! なんなんのよーもう!」


「ハーハハハ! 私に逆らう民はいらん! 死ねぇえ!」


 ティナード様に、リルト様、ネルフィム様や他の領主候補生や護衛騎士が、マグルディンの放つ魔法から民を守っていた。


(わー! 生ネルフィム様だー! めちゃ可愛い!)


「フェルリオル王子! 各領地の領主は来ていないんですか?!」


「今回の収穫祭では、ベネッサと密会することが真の目的だったからな。その為に邪魔な領主一族は排除したから、領主候補生しか呼んでいないのだ」


 それでか、本来なら領主とそれに付随する各領主の護衛騎士がたくさんいるはずだけど、いまは数える程度しかいない。


(あれ? ルインやカルナセシルはどこだろ)


「……ルイン。……カルナセシル。そうだ。私は……」


『どうした?』


――ズキ


 痛っああ! またギュッと胸を締め付ける痛みに襲われた。 ほんともうなんなの……。


「来なさい!《サモンテイム》シャドウスパロー」


 ベネッサが魔法陣を展開してモンスターを召喚すると、漆黒の小鳥が現れた。


「ルインとカルナセシルは牢屋にいるわ! 連れてきて!」


 チュン!と雀みたいな鳴き声を出すと、シャドウスパローはレティーナ城の方へと飛び去った。


『なぜ牢屋にいるとわかったのだ』


「二人の名前を聞いたことで思い出しました。なぜ私が死んだのか」


(え! 記憶戻ったんだ! よかったね!)


『ベネッサはなぜ死んだのだ』


「私は自害したのです」


(え?!)


「絶死のダンジョンに落とされたら最後。肉体すら残りません。家族の事を思うと、せめて肉体だけは……と思い。牢屋の中で服毒自殺を図りました」


(じゃあ私がベネッサの中に入ったのは……)


「恐らく牢屋の中か、処刑場に連れて行かれる道中でしょう。私はルインやカルナセシルと共に、牢屋に閉じ込められておりましたから」


 私が目覚めたのが処刑直前ってことね。そういえば目が覚めた時に口の中が変な味したかも。


 その話を聞いていた王子は、近くを飛んでいた配信スライムを掴むと、こちらを振り返った。


「よし、ベネッサはカルナセシルと合流しろ。私はマグルディンを止める。しかし、倒しただけではこの騒動は治らん。この配信スライムは借りていくぞ」


「頼みます。王子」


(配信スライム。めちゃくちゃ嫌がってるけど、いってらっしゃーい)


 すると王子が振り向いた。


「……ベネッサ。もう一度、あの夜のように名前で呼んでくれないか?」


「……ふふ、わかりました。いってらっしゃい。フェルリオル」


「任せろ!」


 熱愛っぷりを見せつけると、フェルリオル王子は配信スライムと共に、アサシンイーグルの背中から処刑場のマグルディン目掛けて飛び降りた。高さにして二十メートルくらいはある。


(配信スライム、王子の実況中継よろしくー)


「マグルディン! 覚悟しろぉおおお!」


 わぉ。無言で斬りかかればいいのに、律儀に叫んじゃったよ。やはり貴族としては不意打ちは卑怯なのかな?!


「これはこれはフェルリオル王子! 探しましたよ」


「散れ! 奥義――王命八突!」


 先ほど見せてもらった王命八剣は、広範囲に創り出した八本の剣を放つ技だったが。


 この技は貫通力を上げるために、造り出した八本の剣を一つに重ねて一点突破する技のようだ。光り輝く王子の剣に八本の剣が重なると、眩いほどの光が辺りを照らした。


「くたばれ! マグルディン!」


「ふふ。王子には無理ですよ。《ロックシールド》+《黒龍の鎧》+《拒絶の暴風》」


「な、なんだと!」


 フェルリオル王子とマグルディンの間に一瞬で巨大な岩の板が現れると、それを黒い龍鱗が覆った。落下を止められない王子の奥義が黒龍の岩を叩くと、それと同時に強烈な風が王子と配信スライムを吹き飛ばした。


「チッ!」


 飛ばされたフェルリオル王子は地面に着地すると、まるで閃光のように輝きを放ちながらマグルディンの元へ疾走した。私の空間機動なんて比べ物にならない速さだ。


「強いのはその剣だけであろう!」


「まぁまぁ、落ち着いてください。《速度減少》+《空気鈍化》+《闇手の枷》」


「くっ!」


 高速で間を詰めたフェルリオル王子が、次第に速度を落とし、地面から這い出てきた黒い手に右上でを掴まれ、マグルディンの近くで動きを止めた。


「フェリオル王子。私は貴方に感謝しているのですよ」


「感謝……だと?」


「そうです。私はずっと日陰者だった。絶対に日の当たることない王の隠し子。殺されなかっただけでもマシです」


 マグルディンが群衆に魔剣カグラを向けた。


「でもね。貴方がいたお陰で、いつか貴方を超えて王になりたい! 権力を! 力を手に入れたいと願っていた! それがどうです?! この圧倒的な力! 《フレアブレス!》」


 マグルディンが群衆に向かって爆炎の息を出すと、ティナード様が水の壁を作ってガードした。が、耐えれずに一部が貫通しティナード様と群衆の一部を焼いた。


(ひぇ、大丈夫かな……)


「やめろ! マグルディン! 暴力に人は付いてこない! 国が成り立たんぞ!」


「黙れ。フェルリオル……。《空間圧縮》+《操り糸》」


「ぐ、がっ!」


 動きを止めていたフェルリオル王子の右腕が、あらぬ方向へボキッと曲がって剣を落とした。


「思えば、力では勝てない貴方を引き摺り下ろすため、いろいろと策を労した。苦い思い出だ」


「や、やはり舞踏会で起こったネルフィムの毒殺はお前が……」


「ああ、あれは最悪だったな。ヴェロニカに甘い言葉で誘い出し。ネルフィムに毒入りの飲み物を渡すはずが……。あのバカ、早まって舞踏会の最中に渡しやがった」


「やはり、お前が黒幕だったか……」


 王子はチラッと配信スライムへ視線を流した。


 そうか、マグルディンをただ倒すだけでは国民に対して誰が一連の犯人だったのかわからない。 王子はマグルディンの相手をしながら、ベネッサの身の潔白を同時に晴らそうとしている。


「何かお前の弱点はないかと探していたら、まさか自分から墓穴を掘ってくれるとはな……。ベネッサとの逢瀬は楽しかったか?」


 にやりと気持ち悪い笑みをこぼしたマグルディンが、魔剣カグラを私たちに向けた。


――配信累計時間:10時間15分


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