no42...王子とベネッサ

 ガイコツ騎士団を警戒して地下神殿の端っこまで行くと、息を整えたベネッサがやっと喋れるようになった。


「はぁはぁ――」


「ベネッサ、大丈夫か?」


「はぁ、死ぬかと思いましたよ。もう……」


 ベネッサが、めちゃくちゃ照れてるのが伝わってくる。惚れ草効果なのか、王子様が王子様だからなのか。でも、まぁピンチを救ってくれるなんて、ズキュンきちゃうよね!


 ボロボロのドレスのスカートを手で払うと、ベネッサは話を切りだした。


「それで王子はなぜここに?」


「君こそどうやって生きながらえたんだ」


 お互いに聞きたいことだらけだ。質問に質問が飛んでしまう。しかし、階級的にベネッサが先にある説明すべきだと悟ったようだ。ベネッサは咳払いをすると、ゆっくりと説明を始めた。


「私は絶死ダンジョンに落下した先で、この喋る剣カグラに出会い、力を借りてここまで来ました」


「そうか、カグラ。礼を言う」


『何、たいした事はしておらん。涼音の功績だ』


「うお! 本当に喋るのか……。驚いたな。ん? スズネとは誰のことだ? 他に仲間がいるのか?」


 王子はキョロキョロと辺りを見回したが、誰もいないことにキョトンとしている。


「えーと、なんと説明したら良いか……。穴に落ち後、実は私は死んでしまったのです。そこに涼音さんが乗り移って身体を動かし、反魂の泉まで連れて行って私を生き返らせてくれたのです」


(穴に落ちる前から死んでたけどね)


「一度死んだ、だと?! 大丈夫なのか?!」


「ええ、思い出せない記憶がありますが、それ以外は問題ありません」


――ズキ


 痛っ! まーた胸が痛い。本当なんなんだろう。この中にお医者さんはおりませんかー?


「そのスズネとやらは君の中に?」


「ええ、では少し変わりますね。交代〈スイッチ〉」


(え? 変わるの?)


 ギュンと押し出される感覚を襲われると、私は表の人格として顕現した。まだ心の準備が出来てないけど、しかし気付いた時には、目の前に金髪イケメンの王子様が立っていた。


 フェルリオル王子は、実際目の前で見ると王子様オーラがすごい。確かにこれは惚れちゃうかもね。で、私はなんて挨拶すればいいの?! 無理に畏まる必要ないよね? ここは私らしく行こう――。


「やっほー! 涼音です! フェルちゃん、助けてくれてありがとん!」


「……頼む、ベネッサと変わってくれ」


「え! ちょ! チェンジ早いよ?!」


(涼音さん……)


 えええー! 貴族の礼なんてわからないし! フレンドリーさを重視しようと思っただけなのに!


『すまぬ。これでも我が主だ。涼音がいなければベネッサは生き返ることも出来なかっただろう』


「そ、そうか。それは感謝する。でも、ベネッサと変わってくれ」


「えー! 冷たくない?! もー! 交代〈スイッチ〉」


 再びギュンと後ろに引っ張られる感覚に襲われると、私はベネッサの中に戻った。


(カグラー! 王子様が冷たいんだけど!)


『話が済むまで大人しくしていろ』


「涼音さん、ちょっと待っててくださいね」


「どうした?」


『涼音が駄々を捏ねているだけだ、気にするな』


「苦労しているのだな……」


『まぁな』


 失礼しちゃうよねー? 私を除け者にしてからにー。私がムギギギとベネッサの中で暴れている間にも、勝手に話は進んでいった。


「それで、地上の話だったな」


「はい、なにが起きてるのですか?」


「マグルディンがレティーナ城を破壊しているのだ」


 マグルディンって、あの王様の隠し子っていうネルフィム様の毒殺を計画してた人だよね。


 ちなみに、さっき交代〈スイッチ〉した時にコメントが聞こえてきたけど、やっぱり悲鳴ばっかりだった。もう私のことを見てる人はいない感じなのかな?


「マグルディンがレティーナ城を攻撃? 騎士団は何をしているのですか?」


「騎士団は、恐らくマグルディンにやられたのだろう」


(そんな強かったんだあの人)


「あの、話が飛躍していて意味がわかりません。順を追って説明をお願いします」


「そうか、記憶が欠如しているのだったな。では領主会議の一ヶ月後に開かれた、収穫祭は覚えているか?」


「収穫祭……ですか?」


「あぁ、私とベネッサが逢瀬を重ねた日だ」


「ええぇ! わ、私が王子と……?」


「覚えておらんのか?」


(えー! なに?! そういう事?! ひゅー!)


「……涼音さんお静かに」


(はい……)


 これ本気で黙れって思ってる時のベネッサだ。しばらく黙っておこう……。


「スズネは、また暴れてるのか……」


『放っておけ』


「それで収穫祭の日なにがあったんですか?」


「あの日の夜。私とベネッサは隠し部屋で子作りを終えた後の事だ。ベネッサは領塔の肖像画から出るところを、マグルディンと騎士団に見つかったらしい」


「成人前に王子と逢瀬を行った者は、死刑もありうる……」


「そうだ。ローゼリア様の時は大戦になりかけたからな。抑止するためにそのような制度が追加された」


「しかし、いきなり死刑なんて……」


「恐らくそれはマグルディンが王に助言したのだろう。ベネッサは王族となるため、第一領地のネルフィム毒殺を企て、失敗するや王子を誘惑して無理やり逢瀬を重ねた、と」


「そんな……」


「領主会議での事件も、犯人がうやむやという状況だった。王は事件を収束させるため、マグルディンの話に乗ってしまったようだ」


 王様もちゃんと考えてよねぇ。ベネッサがそんなことするわけないじゃん。


「そして王命により、私は自室に幽閉された。処分が決まるまで部屋から出るなと。騎士団を見張に立てられ、どうすることもできなかった」


「その間に私の処刑が決まったという事ですか?」


「そうだ。私がベネッサの処刑を知ったのは、執行後だった……。すまない」


 死刑が執行された後なら止められないよねぇ。でも、マグルディンはなんでそこまでしてベネッサを罠に嵌めたかったんだろ。


『マグルディンの狙いはなんだ?』


「恐らく、ベネッサを処刑することで、私が暴れると思っていたのだろう。私が危険分子として排除されれば、次期国王はマグルディンしかいないからな」


(卑劣な……)


「しかし、マグルディンに予定外のことが起きたのだ」


(予定外?)


「今朝の事だ。突如マグルディンが片刃の禍々しい剣を手に、レティーナ騎士団と戦闘を繰り広げたらしい」


(それって……)


「まさか……」


『……魔剣カグラか』


「知っているのか?」


『ああ、我と対になる剣だ。その剣の破壊こそ我が使命』


「私は騎士団から戦闘要請でマグルディン討伐のために向かった。しかし、その道中の事だ。城の外を見ると処刑場のモニタースライムで、ベネッサがダンジョンの中にいる映像が流れているのを見てしまった」


(そこで初めて、ベネッサが処刑された事を知ったんだね)


「次の瞬間――。気がつくと窓を蹴破り、私は絶死のダンジョンの穴に自ら飛び込んでいた」


(コメントで、ちらっと聞こえたのはそれだったのかな)


〉おい! あれってまさか!

〉いままでどこにいたんだ?


 コメントをオフにする直前で、そんな声が聞こえた気がする。もうちょっと聞いておけば、王子と合流してから探検出来たのかな。


「私は……。マグルディンの討伐、つまり自国の民を救うより……。ベネッサ、君を救う事を選んでしまった……。無能な王族だ」


「そんなことありません」


「ベネッサ……」


「少なくとも私は嬉しかったです」


 ベネッサとフェルリオルは、また二人だけの世界に入ってしまった。


(あーあー! また顔が近づいてるよー!)


『涼音、黙っておられんのか』


 ズゥウウウウン!


 その時、大きな地響きが地下神殿を揺らした。


 パラパラと砂が天井から落ちてくると、二階への階段の先の天井が崩落して地上が見え、光が差し込んだ。


「私は王族として、マグルディンを止めねばならん。ベネッサはここにいろ」


「いえ、私も行きます」


「ダメだ。マグルディンは君を狙ってくるかもしれない」


「王子が守ってくれますでしょう?」


「まったく、君という奴は……。危険を感じたらすぐに逃げるのだぞ」


「はい!」


 二人はニコリと微笑むと、フェルリオル王子を先頭に神殿の階段を駆け上がった。


――配信累計時間:9時間55分


―――――――――――――――

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