no39...神剣カグラ・マサラ

 魔剣カグラは、リナティス女王の《万物分断》により、刀身が黒のカグラと白のカグラの二つに別れてしまった。


「半分こおばさん怖ッ! うちの近所にもいたんだよー! お土産もなんでも半分こしてくるの」


(半分こおばさん……)


『バカな……。カグラが二つになっただと?!』


 女王は白のカグラを投げ捨てると、残った黒のカグラを構えマサラに向けて魔法を唱えた。


「どれ……《ライジングボルト》」


 すると、黒のカグラからバリバリと雷鳴が鳴り、電撃魔法が放たれマサラを直撃した。


『ぐぁぁあああ! なん、だと……!』


「絆が、なんです? オーホホホ!」


『我のカグラに何をした……!』


「妾の固有スキル《万物分断》は、物質だけでなく其方の言う絆やスキル、病気や怪我。目に見えぬモノまで、まさに万物を切り離すスキルなのよ」


 強っよ! 万物分断ってなによそれー! なんでもありじゃん! 敵も真っ二つって強すぎない?!


「魔剣カグラに内包される全てのスキルは、この黒のカグラに移した。そこの白のカグラは、お前との絆とやらのみが残ったスキルの無い、ただの鉄屑さ」


『くっ! まさかそんなスキルが存在するとは……』


「もう其方に用はない。屑鉄と共に始まりのダンジョンへ落としてしまえ。妾はこの黒カグラを使い隣国を落とし、このガイア帝国を拡大する!」


『正気か?! リナティス女王! 剣は人殺しの道具などではない! 剣は人々を守るためのにある!』


「おかしなことをいう……。ならば使い手によって善にも悪にもなると申すか? それは誰が決める? お前か? 神か?」


『貴女の娘が、もし戦火に巻き込まれたとしたらどう思う?! 考えなおせ! 大戦になるぞ!』


「ふん、目障りな。連れて行け」


「はっ!」


 あーあ、連れてかれちゃった。しかし、全てのスキルを使える剣を手に入れて、なんでも半分こしちゃう女王は無敵じゃない? 誰が勝てるの? この世界を牛耳ってしまいそう。


「やっぱり、ここは私がいる国とは違う国なのかな?」


(いえ、涼音さん、やはりここはレティーナ城ですよ)


「そうなの?」


(ええ、壁の色や装飾は違いますが、部屋の配置や通路の広さが同じです)


「数百年前って話だから、一度壊れて跡地にレティーナ城を作ったとか? よく土台だけ残ることあるもんね」


(そうかもしれませんね……。あ!)


 映像に視線を戻すと、マサラと白の無能カグラは、私たちの見覚えのある場所に連れてこられていた。むしゃむしゃ、おいしっ。


(あれがあるなら、確実にここは中央ですね)


「だねぇ、私も落っこちたし」


「女王に逆らう不義理者め! お前の好きなダンジョンで野垂れ死ぬが良い!」


『う、うわぁああああ!』


 私が落とされた穴と同じ穴。絶死のダンジョンの入り口に、マサラとカグラは落とされてしまった。これ途中に即死スキル使ってくるカースアイの壁があるけど、どうするんだろ。


『くっ! カグラ!』


 暗闇の中を落ちながら、マサラはなんとかカグラを掴むと、手当たり次第にスキルを試した。


『浮遊! ロックウォール! ウィンドウバリア! くそッ! ダメか!』


 リナティス女王の言う通り、本当にスキルは全てあっちの黒カグラに取られてしまったらしい。そろそろカースアイがびっしりの場所だ。マサラはどうするんだろ。


『なんだ?! 何か抵抗したな……。よく見えぬが、これはカースアイか? 神級鍛治師である我には、土属性モンスターのスキルは効かん。見誤ったなリナティスよ』


 わお、効かないんだ。まぁ神級の土いじりスキルだもんね。カースアイって土モンスターだったんだ。でも落下したら死ぬんじゃ……?


『地面が土なら好都合! 《属性付与ー衝撃吸収》』


 マサラは地面にぶつかる直前、地面に対して属性を付与した。それこそが私も助けてもらった、衝撃を吸収する地面の正体かー。


(もしかしてマサラさんのおかげで、私たちは助かったのですか?)


「ん? ベネッサはその前にもう死んでたけどね」


(え? 落下したことで私は死んで、そこへ涼音さんが取り憑いたのでは?)


「もー、人を幽霊みたいに言わないでよー。私がベネッサの身体に入ったのは落ちる前だよ」


(落ちる前に……。なぜ私は死んだのでしょうか)


「さぁ、それは私もわからないよ」


 私たちが話してる間に、マサラは白カグラを手に取ると、カースアイの通路を進んでモンスターに遭遇。しかし、まったくスキルのないカグラでは歯が立たず、落下地点に逃げ帰ってきた。


『ここまでか……』


 ダンジョンの奥にも進めない。上にも登れない。食料もなく、手持ちは無能カグラだけ。マサラは穴の底で岩を背に座り込んでしまった。むしゃむしゃ。


『最強の剣を作るべく、鍛治に打ち込み数十年……。遂に神級鍛治師となったが、あれは――魔剣カグラは、作るべきでは無かったのだろうか……』


「そんなことないよ! 悪いのはあの半分こ女王だよ!」


(半分こ女王……)


 過去の映像だ。聞こえないとはわかっていても、叫んでしまった。マサラは何も悪くない。カグラも悪くない。悪いのは、それを悪いことに使う奴だ!


『……我は間違っていた。剣ばかり鍛えて強くしても、真の強さは得られない』


『真に鍛えるべきは使い手。剣とは、使い手と一体になる事で初めて真価を発揮する』


『カグラ……。お前を ”使い手を育てる剣” へと、我が命をもって精錬し直す!』


 覚悟を決めたマサラは、白カグラを手に取ると……。自らの心臓に突き刺した。


『ゴフッ。これが――。我が最後の精錬。神技――魂乃精錬(スピリット・オブ・クラフト)』


「ひぇ! 白カグラを自分の心臓に刺したよ?」


(カグラさんの誕生にこのような過去があったとは……)


 自らの心臓を刺したマサラは白く発光し、グググッとだんだん細長くなっていく。まるでカグラとマサラが同化しようとするかのように……。


『カ、カグラ! い、いつの日か……。お前を手に取り、共に戦ってくれる人が現れたら……。もう一本のカグラを破壊してくれ! 頼むッ――』


 ピカー!と目が眩むほどの明るさでマサラが光ると、光の中からヒュンヒュンと剣が飛んできて、岩に突き刺さった。その姿こそ、私が出会った時のカグラ。


 マサラを材料として生まれ変わった。神剣カグラ・マサラだった。


――配信累計時間:8時間45分


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