no38...映画鑑賞
「《形状変化》爪切り!」
パチ、パチ……。
(あの、涼音さん……?)
「ん?」
(何をしているんですか……?)
「なんか、身動き取れないと爪を切りたくならない? ベネッサの爪長いから気になってて……ごめん伸ばしてた?」
カグラ・ザ・ムービーは、ひたすら戦闘シーンだった。最初の方は両刃のカグラがたくさんスキル使ってて、かっこいーーとか思ってたんだけど。飽きちゃった。えへ
カグラは動かないし、勝手に形状変化させて爪切りになってもらった。蜘蛛糸だと柔らかくて、さすがに爪は切れないからね。
(いやそうではなくて、カグラさんの過去話を見なくて良いのですか?)
「見てるよー。ちゃんと視界の端で」
(ちゃんと見てあげたほうが……)
「だってずっと戦闘してるシーンばっかりだし」
マサラは、ダンジョンの出口に向かってるらしいけど、本当にずっと戦ってる。映像の中でシェルロックリザードが出てきた時は、私の倒した奴の方が大きい!って勝ち誇ってたりもしたけど……。
「あ、ベネッサ見て。いつの間にかマサラさんと両刃カグラがお城にいるよ」
マサラはカグラを背中に背負い、赤茶けた煉瓦造りの城の内部を歩いている。どこかの王宮のようだけど、ベネッサの記憶で見た白いレティーナ城とは、内装のデザインが全く違う。マサラは、どうやら玉座に向かっているらしい。案内役の兵士が「女王がお待ちです」と中へ入るように促した。
玉座の間には、厳戒態勢でも敷いてるのかってくらい多数の兵がいて、マサラはそれが気になって一瞬入るのを戸惑ったけど、カグラに視線を向けると覚悟を決めて中へと入った。
「よく来たな。神級鍛治師マサラよ」
王座の前には、王冠を頭に乗せた長い紫髪の女性が座っていた。性格がキツそうな目尻が釣り上がった鋭いエメラルドグリーン瞳。意思の強そうな紅唇。もろ悪役令嬢のおばさん版みたいな。
「なんか、ベネッサに似てない?」
(そうですね……確かに)
そういえばベネッサの固有スキルに《王家の血筋》ってあったのを思い出した。どんなスキルなのかな
《良さげな鑑定》詳細を見てみた。
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王家の血筋 〈固有スキル〉
王家の血を引く者の証。即死を無効化する
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あ、これのおかげで入り口のカースアイの即死が効かなかったんだ……。ふーん。ならベネッサはやっぱりこの女王様の子孫って事なのかな。
「ベネッサって王族なの?」
(違いますよ。うちの家系は成り上がりなのです)
「成り上がり? 元からフェルトグランを領主一族ではないってこと?」
(そうです。元は地方の農民と聞いています。だからミドルネームもネルフィム様のように領地名ではなく、ユーリーンですよね?)
「確かにそうだね」
でもこの女王様。リナティス女王は、あまりにもベネッサに似すぎてる……。何かきっと関係があるに違いない。と名探偵 涼音の感は告げている。
(いまはカグラさんに集中しましょうか)
「はーい」
ベネッサと話してる間に、マサラさんは片膝をついて、なにやらリナティス女王に説明していた。全然聞いていなかったけど、確かどうでもいい挨拶を話してた気がする。
「それでどうじゃ? 始まりのダンジョンへの許可を与えて一年、魔剣カグラの進捗は」
『全てのスキルを獲得。および全スキルレベルが最大となりました』
「おお! では、ついに完成したのだな!」
『はい、魔剣カグラは完成致しました。ご協力感謝致します』
マサラが深々と頭を下げると、その瞬間、リナティス女王の唇がニヤリと笑った。
「して、神級鍛治師マサラよ。妾が其方に最初に交わした約束を、覚えているか?」
『もちろんです。始まりのダンジョンへ入る許可を頂く代わりに、一振り剣を打つと』
「ならば、その魔剣カグラ。妾に献上せよ」
えー、やっと全てのスキルをコンプリートして、最大レベルまで上げたのにー? それじゃ何のためにダンジョン入って鍛えたのかわからないじゃない。
『失礼ながらリナティス女王、カグラは我が相棒。例え王と言えど差し上げるわけには参りませぬ』
「ほぉ。妾に逆らうと申すか」
険悪な雰囲気になってきた……。リナティス女王が手を挙げると、控えていた百人ほどの兵士たちが一斉にマサラさんに刃を向けた。むしゃむしゃ。おいし草、おいしい
。
「最後のチャンスをやろう。マサラよ、魔剣カグラを妾に渡せ」
『何と言われようと、絶対に渡さん』
「ふふふ、良かろう。ならば死ね」
ワァアァアという大勢の掛け声と共に、兵士たちがマサラに一斉に襲いかかった。むしゃむしゃ。
『行くぞ、カグラ!』
マサラさんvs城の兵士百人。 見た感じ位の高そうな鎧を着てる人も何人かいるから、ただの雑魚兵士ではなく騎士団的な兵士だと思う。
『カグラ! ロックブラスト!』
マサラは、カグラから様々な魔法を発動させて応戦し始めた。強いのなんの。応用力がすごいね。むしゃむしゃ。
映像の中では、いつの間にか騎士団にマサラが組み伏せられており、魔剣カグラは地面に転がっていた。
「多勢に無勢。いくら最強の剣を持ってしても、使い手本人がこの弱さではな。モンスターは倒せても、妾の騎士団には勝てぬぞ」
『くっ』
床に落ちたカグラを兵士が拾うと、玉座に座るリナティス女王へ手渡した。
「ふむ、素晴らしい剣だ。妾が試してやろう。《フレアバレット》」
リナティス女王が魔法を唱えるが、何も起きない。
不思議な顔をして、今度は《ライジングボルト》を唱えるがそれも不発。
「……? なにもスキルが発動せぬぞ」
『ふ、魔剣カグラは我と深い絆で結ばれている。我にしか反応せぬ! 残念だったなリナティス女王よ!』
「ならば、その絆とやら断ち切るまで」
『なに?!』
リナティス女王が刃を上に向けたカグラを両手で持つと、ぐっと左右に引っ張り始めた。ご祈祷みたいなポーズだ。
「妾の固有スキルを見せてやろう」
『何をする気だ!』
「妾は王ぞ。民に全てを分け与えるため、このようなスキルを持って生まれた。全てのモノを切り裂くスキル」
『なんだと?!』
「裂けろ《万物分断》」
『カグラーーーー!』
驚く事に、女王は素手で両刃のカグラを真っ二つに引き裂いた。
――配信累計時間:8時間25分
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