no31...2人の約束

「良いですか? 王子。女性には子を身籠れる時期というのがありまして、今すぐというのは無理なのです」


「なんだと?! そんな話、側近のハイネイルから聞いておらんぞ!」


 うーん。誰だ、王子に偏った知識を与えた奴は。教育するならちゃんとしておいて。


「私は、女性はいつでも子供が産めるモノだと思っていた……」


「そんなわけないじゃないですか」


 人体の不思議はそんな簡単な話ではない。


「しかし、まずいな。今日がダメならいつなら都合が良いのだ?」


「そうですね。えーっと、二十日後でしたら」


「二十日か……。それならば、ギリギリ間に合うな」


 しまった……。思わず正直に答えてしまった。 私のバカ……。


「よし、密会するならこの部屋しかない。カモフラージュのために何かイベントを開催して、各領主を中央に招集をするか。そのためには……」


 王子は何やら壮大な計画を練り始めてしまった。まぁ確かに私が一人で中央に来るのは怪しすぎる。って、いやその前に、私は王子と結婚する事が既に確定みたいな流れになってるけど……。


「あの、まだ私は王子と結婚すると決めたわけでは……」


「拒否権があると思うか?」


「え、無いのですか……」


「このままネルフィムは殺されその罪を私は被ると、この国はマグルディンのモノになってしまうのだぞ?」


 それはそうかもしれないけど、そのために私が王子と出来ちゃった婚をしなきゃいけない現実を、いまだに受け入れられない。


「ベネッサが私と子を作り、結婚すれば。全てが丸く収まる」


「それはそうかもしれませんが……」


 王子にとってはメリットだらけに聞こえるけど、国にとってはルール違反をするわけだから、第五や第六領地辺りが黙ってなさそうだ。


 困った。これはもう断れる雰囲気ではない……。なら、こちらから条件を付けさせてもらって、少しでも私の有利な話にしよう。


「わかりました。その代わり私にも条件があります」


「なんだ、申してみよ」


「私専用の研究棟を中央に建ててください。それと研究費用の確保と、研究する時間を毎日五時間はください」


「良かろう」


「え、いいんですか?」


「当たり前だ。ベネッサの発明する品の数々は私も高く評価している」


「あ、ありがとうございます」


 思ったよりあっさりと許可が出てしまった。

 研究棟はダメ元だったんだけど、それが実現出来るなら王子との結婚も悪くない。


「ベネッサ。私にとって君は世界より大切な存在なのだ。もし君がマグルディンに拐われようなら、例え空の果てだろうが、地の底だろうが駆けつけて助けると誓おう」


「それは頼もしい事で……」


 なんだか、なし崩し的に王子と結婚することになってしまったけど、私の研究場所と時間は確保された。それだけでも良しとしよう。


 すると、王子は片目を押さえて押し黙ってしまった。


「チッ。見張りが近づいてるな。もう私は戻らねばならぬ。良いか? 来月、子を産む準備をしてくるのだぞ」


「うう、なんかその言い方、嫌です……」


「それでは領棟に送る。壁に埋まっている転移結晶に触れよ」


 言われて私が出てきた壁に戻ると、肖像画の瞳と同じく転移結晶が埋め込まれていた。恐らくこれが領棟の肖像画と繋がっているのだろう。


「ベネッサ。君と話せてよかった」


「私もです」


「また会おう。ベネッサ。愛している」


 恥ずかしいセリフを真顔で言われて、少し私の頬も熱くなると、次の瞬間には転移結晶から溢れた緑色の光が私の全身を覆った――


『記憶配信が終わったぞ』


 聞き覚えのある声で目を覚ますと、私はカグラを強く握った。


「敵は?! いる?! いない?!」


『今回は来なかった。恐らくメテオウルフの熱がまだ残っているからだろう』


 慌てて辺りを見回すと、先ほどまで私が食べたていたエンドフィッシュの残骸や、蜘蛛糸で作った食器が散らばっていた。


(思い出しましたわ。マグルディンの狙い。フェルリオル王子の計画……)


「ねぇねぇ。ベネッサって王子様のこと好きだったの?」


(え! な、なぜですか?)


「いや、あんなアプローチされたら、ねぇ?」


 王子に迫られるなんて、乙女の憧れだよね。

 私もあんなかっこいい王子様に抱きしめられたい! 前世では彼氏すらできたこと無かったからなぁ。いいなぁ。


〉お? 動いたぞ

〉寝てたのか?

〉これいつ処刑終わりにするんだ?

〉もうほっといてもいいんじゃないか?

〉そうだな。そのうち死ぬだろ


 っていうか、なんかコメントがうるさいな。こっちは恋話を楽しんでるってのに!っていうかベネッサがいれば、コメントの情報なんていはなくない? オフっちゃお。


「ちょっと待ってね」


〉おい! あれってまさか!

〉いままでどこにいたんだ?!


「《配信魔法》コメ視聴・オフ!」


 おー! めちゃ静かになった!

 しばらくはオフにしておこうっと。


「ごめんね。ベネッサ。それでそれで? 好きなの?どうなの?」


(そう、ですね。好きだったかもしれません……ふふ)


「そっか。なら、さっさとこんなところ出よう!」


(……はいっ)


 ベネッサの声が明るい。王子様の事を考えるのが嬉しいんだ。早く会わせてあげたいな。


『出たところで行き場などあるのか? ベネッサが死んだことで 王子は諦めてネルフィムと結婚しているのではないか?』


(それは……)


「そんな事ない! 絶対、王子はベネッサの帰りを待ってるはずだよ! 行かなきゃ!」


(ありがとう……ございます。涼音さん)


 あんなにベネッサの事を大好きな人が、たかが死んだくらいで諦めるわけがない。こうしてベネッサの魂は復活した訳だし、私は王子の本気の愛を信じるよ!


 きっと王子様もベネッサを救う方法を探してるはずだ。なら、私はこの身体を地上に届けるのみ!


「あ、ちなみにモンスターを倒すのは私だからね? 魔核を斬らないとスキルが強くならないんだから」


『そうだな』


(わかりました。でもピンチの時はお呼びください)


「うん」


 ベネッサがいれば百人力だけど……。私が倒せるようにならないとスキルが育たないもんね。がんばるぞ!


「それじゃあ、地上に向けてレッツゴー!」


(はい!)


『道案内は任せろ』


「うん百年前の情報でしょー?」


『無いよりは よかろう』


 こうしてベネッサの過去を知った私とカグラとベネッサは、意気揚々とダンジョンを進み始めた。


――配信累計時間:6時間43分


―――――――――――――――

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