no30...王子の考え

「お、王子?!」


 ベットに押し倒された私は、柔らかいベットの感触を背中に感じながら、力強く押さえつけられる肩の痛みで、何が起きたのかわからなく頭が混乱した。


「ベネッサ! 頼む! 私の子を産んでくれ!」


「はい?!」


 まさかの直球である。私を押し倒したフェルリオル王子の瞳は真剣そのもので、冗談ではないその本気の視線を私は逸らすことが出来なかった。


 さらに、王子から発せられる良い匂いは、恐らく媚薬だろう。少し嗅いだだけでも変な気持ちになったが、頭を振って意識をしっかり持ち、王子を押し返した。


「落ち着いてください! 王子!」


「ベネッサ! 子を産んだのち、私と結婚してくれ!」


「順序が逆では?!」


 混乱していた私は、なぜか冷静にそこだけ訂正して、私に覆い被さろうとする王子を押し返すが、力の差は歴然。中央でモンスターを出して怒られたばかりだけど……仕方ない。


「ベネッサ! 私には君しかいないんだ!」


「申し訳ございません! 《サモンテイム》ロックラット!」


「ぐはっ!」


 私と王子の間に展開された魔法陣から、高速で飛び出した小型の岩ネズミが、王子を弾き飛ばした。


 もちろんロックラットにも、検知無効の指輪をつけてあるから検知魔法にはかからないけど、王子を攻撃をしたなど誰かに知れたら処刑は免れない……。


「ゲホッ、さすがマスターテイマーと噂高いベネッサ……。恐ろしい召喚の速さだな」


「も、申し訳ありません!」


 やってしまった。弁解のしようがない。

 強引に迫られたからと言っても、手を出したのは私だ。


「いや、いい。私も悪かった……。しかし、これしかネルフィムを……。この国を救う方法は無いんだ」


「……どういうことですか?」


 王子からは下心ではなく、本気でこの国を心配する王族としての気迫を感じられた。私の知らぬところで事態は思ったより危険な状態まで進行してるのかもしれない。


 王子の口からネルフィム様の名前が出るなら、これはもうマグルディン様が絡んでいるのは明白だった。


 ハァと溜息をすると、王子は自分の胸に手を当てて私の方へ身体を向けた。


「ベネッサ。信じて貰えないかもしれないが、私は君が好きだ。一目会った時から、その美しさに心を奪われた」


 言いながら、王子が私の手を両手で握り返し、見つめてきた。 それと同時に私は、王子の頭にロックラットで背後から狙いを定めた。


「寝ても覚めても、脳裏に焼きついた君の素敵な笑顔が私から離れないのだ。ベネッサ、君こそ私の女神だ」


 恥ずかしくて死にそうです……。 鉄面皮と言われた私が微笑む? そんなシーンあっただろうか? そもそも一度もそんなアプローチを王子からされたことありませんけど。


「しかし君も知っての通り、王族の勝手な恋は許されない。だから私は、この思いを密かに心に閉まっておいた」


 過去起きたローゼリア様の出来ちゃった婚では、領地間の戦争が起きる寸前だったと聞いている。王族として過去と同じ過ちを繰り返すことはできない、と。


「しかし、その秘めた思いに気付い者がいる」


「それがマグルディン様ですか?」


「そうだ。マグルディンの検知魔法は人智を超えている。魔物や人の気配の検知だけではなく、魔力を持たぬモノや人の思いの検知まで可能だ」


「え……。そんな事が……」


 ならばやはり私にわざと聞かせるために、一芝居打っていた可能性が高い……。全てマグルディン様の手の上だったのだろうか。


「噂になっているがマグルディンは王の隠し子だ。そして奴は王位を狙っている」


 やはりマグルディンが王の隠し子という噂は、本当だったんだ。となると……。


「フェルリオル王子が継承権を失えば、マグルディン様が王位につく可能性が出てくる……。ということですか?」


「そうだ。マグルディンの筋書きはこうだ。ベネッサに想いを寄せるフェルリオルは、ベネッサと結婚するために第一領地のネルフィムを毒殺」


「そして、ネルフィム様殺害の罪でフェルリオル王子が処罰されれば……」


「マグルディンが、王位を継ぐ可能性が出てくる」


 なんて身勝手な……。自分が王位を継ぐためにフェルリオル王子を罠に嵌めて、関係のないネルフィム様を殺そうとするなんて!


 喉が渇いたので、部屋に置いてあったワインを勧められて、二人で飲んでいると。王子は難しい顔をした。


「ただ、一つ腑に落ちない事がある」


「なんでしょうか」


「私に罪を被せるつもりなら、なぜ舞踏会でネルフィムに毒を盛ったのだろうか。私は領主会議に出ていたのに」


「恐らくですが、実際にネルフィム様に毒を盛ったのは、ヴェロニカです」


「ヴェロニカ? 確か……ネルフィムの側近だったか?」


「はい、これには確証があります」


 ヴェロニカのあの発言は絶対におかしい。それに、マグルディン様とヴェロニカが無関係とは思えない。

 私は王子に、事件の当日の内容を事細かに説明した。


「なるほど……。となるとマグルディンとヴェロニカは、たまたま同時に毒殺を計画していたか、または裏で二人が繋がっていて情報の伝達ミスがあったか……」


「そうですね」


 二人の毒殺犯。それは確かだが、それ以上の情報を持っていない私たちが、いくら悩んでも仕方ない。


 気乗りがしないけど、私は最初の話題に話を戻した。


「それで、なぜ私が王子の子を産み、王子と結婚するのでしょうか? 意味が分かりません」


「良いか? 私とベネッサが結婚すれば、マグルディンがネルフィムを狙う必要がなくなる。そして中央にいれば私が君を守ることができる」


「は、はあ……。確かにそうかもしれませんが……」


「自慢では無いが、私はこの国の誰よりも強い」


 それは本当だ。王子の剣の腕は相当だというのは有名な話で、むかし剣術大会が開かれた時、僅か十歳で大人を負かして圧勝だったとか。


 スキルの数が半端ないとか、分身したとか、無数の剣を同時に操るとか、嘘か誠かわからぬ武勇伝は止まるところを知らない。


「しかし、正攻法で私とベネッサが結婚するには、一年後の領主会議の後だ。しかもフェルトグランが第一領地になっている必要がある。出来ると思うか?」


「無理ですね」


 きっぱりと即答した。今回の事件の影響もあるし、ドラストリアが第一なのは、その広大な土地を使って国中に食料を供給しているからだ。その恩恵は絶大なため、ドラストリアが第一領地から落ちることなど、まずない。


「ならば、いまベネッサが私の子を身籠り、半年後の私の誕生祭で妊娠を発表。そのまま結婚してしまえば、来年の領主会議前には子が産まれるであろう」


 完全に巻き込まれ事故の、とんでもない計画を発表されてしまった。確かにその計画なら一年以内には、王子の子は産まれるだろうけど……。


 ローゼリア様に続き、またフェルトグランはルールを破ったと避難の嵐になるのは明らか。最悪フェルトグランが滅ぼされる可能性すらある。


「という事で理解したか? では、さっそく……」


「ちょ! ちょっと!待っ! ロックラット!」


「ぐは!」


 また私の肩をぐいっと押し倒そうとしたので、思わずロックラットを飛ばしてしまった。今度は軽めに飛ばしたので、王子も頭をさする程度で済んでいる。


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