no28...報告会
まず、 ネルフィム様は一命を取り留めたこと。これは不思議ではなかったけど、犯人として逮捕された私を真っ先に弁護したのは、第三領地オスティニアのティナード様だったらしい。
「あれだけ私に突っかかって来た人が何故……」
「ベネッサ様が護衛騎士に捕まって気を失った後も『ベネッサ様ではない! 彼女はネルフィム様を助けようとしていた!』と、必死に弁護していました」
「……気持ち悪いわね」
思わず本音が出てしまった。あの男が利益なく私を庇う理由がわからないわ。
「身もふたもないですね……」
「当然よ」
「舞踏会の後の晩餐会は当然中止になり、二日後に査問会議が開かれました」
査問会議とは、貴族間で起きた問題に対して調査し、懲罰内容を決める会議だ。平民なら即死刑にする内容でも、数が少ない貴族にそれを適応する事は出来ないため、各領主を呼んで開かれる。
「査問会議では、毒消しの指輪が毒を与える物ではないと鑑定された結果に加え、ティナード様とリルト様の証言により無罪を訴える声が多かったのですが、第五と第六が異議申し建てました」
「第五領地ユーロポルカと、第六領地ディスライアね」
「はい。ネルフィム様を助けるためだろうが、中央でモンスターを召喚した事実は変わらない。罪は罪で罰するべきだと」
第三領地のオスティニアは喧嘩っ早いが裏表が無い。それに比べてユーロポルカとディスライアは、内政に置いても黒い噂が絶えないと聞く。
このタイミングで第一、第二が落ちれば自分たちの順位が上がると踏んだか……。
「しかし、会議中に意識を取り戻したネルフィム様が飛び込んできて『ベネッサ様は私を助けてくれた恩人です。是非慈悲深い配慮を』と王に願い出ました」
ネルフィム様……。完全に毒は抜けなかったはず。いまも身体がお辛いだろうに。私のためにそこまで……。
「そうだ。忘れていました。会議の前日、ネルフィム様の側近が一人自害しました」
「それってヴェロニカじゃないわよね?」
「ええ、違います。自害したのは毒味役です。第一領地からは、ネルフィム様に盛られた毒と同じ毒で死んだと報告があります」
となると、ヴェロニカの仕業ね。身代わりを立てる事で、事件を終わらせようとしたのでしょう。犯人が死ねば事件は終わらざるを得ない。
狙われたのが第一領地の娘、犯人も恐らく第一領地の内部犯となる場合。これ以上話を広げると、第一領地として自国内の統治が出来ていないと吐露する事になりメンツは潰れる。中央も第一領地に対してあまり踏み込んで調査出来ないし、動くメリットも無くなる。そういう算段だろう。
「最終的には、第一領地のメア・ドラストリアから今回の件は不問とする申し入れがあり、それを王が承諾。全領地へ不問通知が行われました」
メア・ドラストリアも真犯人が自国内にいると踏んでる証拠ね。私への取り調べがなく話が終わったのは、そういうことか……。
「以上の説明で、何か気になる事はありましたか?」
「そうね。ヴェロニカに接触してる人物の調査なんて、無理よね?」
「他領ですからなかなか……。ベネッサ様はヴェロニカが真犯人だとお考えですか?」
――「ベネッサ様が! ネルフィム様を毒殺したわ!」
あんなセリフがあの時点で出るのはおかしい。あらかじめ知っていないと出ない。ヴェロニカが真犯人だとしたら、ネルフィム様への脅威は終わっていない。
「まぁね。女の感よ。どうにかしてネルフィム様に警告出来ないかしら……」
「仮にヴェロニカが犯人の場合、自領内でやると内部犯だとバレてしまうため、今回の舞踏会を利用したと考えられます」
「確かに……。そうなると自領内では動かない可能性が高いわね。動くとしたら半年後の王子の誕生祭か」
「そうなります」
メア・ドラストリアも内部犯を疑ってるようだし、しばらくは大丈夫だろう。半年後までにヴェロニカの身辺を洗えれば良いけど……。他領となると制約も多く難しい……。今すぐどうにかできる問題ではないわね。
「ルイン。報告ありがとう」
「いえ……。あの時、ベネッサ様をお守り出来ず……。申し訳ありません……」
事件の記憶を思い出しているのか、ルインの手が震えている。本来、護衛騎士は二人連れるのが常識だけど、私はカルナセシルしか連れていない。その不足分を補わねばとルインなりに、責任を感じていたのだろ。
「ルインが気にする事ないわ」
「そうですよ! 役立たずのカルナセシルが悪いんですよ!」
「申し訳ございません!」
カトリーナの指摘でカルナセシルが土下座した。
「私も悪かったわ。フェルトグランに戻ったら護衛騎士を追加すると約束するわ」
もう何度目かわかららない約束をすると、バツの悪いさを濁すために話を切り替えた。
「それでお父様、領主会議の結果はどうでした?」
ルインからの報告が終わると、お父様の領主会議の結果に話題は移った。領主会議の後に事件なので順位に影響はないと思うけど。
「引き続き第二となったが……」
「やはり何か言われたのですね」
「査問会議の後、『例えネルフィム様を助けるためだとしても、この中央でモンスターを召喚した事実は変わらず、ベネッサ当人の気質は知れ渡った』と釘を刺された」
「申し訳ありません……」
「いやいいんだ。こうしてベネッサが無事だっただけで」
助けるためだったから仕方ない、で終わらないのが貴族の世界だ。恐らく情報が上手く伝達されず、さっきの城付きの侍女達のように、酷い噂が流れているのだろう。
「ちなみに、他の領地はどうでした?」
「今回変動は無しだった。毎年の事だが、ユーロポルカより異議が唱えられたが却下された」
「いつものことですね」
「ただ、来年は順位が下がるかもしれんな。ローゼリア様に何を言われるか……」
ローゼリア様とは、私のお祖父様の妹だ。
当時の王子と結婚して王族となり、いまはこの中央の宮殿で生活している。彼女が王族となったことで、フェルトグランに都合良い法案を通していただき、うちは第二領地まで上がることが出来た。そして領地の順位は、中央での発言力に影響する。上位領地の領主の発言権は強いため、自領に有利な法案を通しやすくなる。
今回の件も第五と第六の反発意見より、第一のドラストリアの意見が通ったのも順位による影響が大きい。
「順位の対策については戻ってからやりましょう」
「それもそうだな。今日はベネッサの嫌疑が晴れた祝いでたくさん料理を用意した。存分に食べるがよい」
「ありがとうござます。お父様」
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