no25...スイッチ

 ベネッサが呼び出した炎の狼は、遠吠えと共に目にも留まらぬ速さで鍾乳洞の中を駆け巡ると、次々にストリングタラテクトを焼いていく。


「グルルル! グァウ!」


〉おい! なんだあれは!

〉メテオウルフだと?! 上位モンスターじゃないか!

〉まさか呼んだというのか!

〉なら、城の中でアイアンゴーレムを呼んだって噂は

〉本当らしいな


 糸を使って逃げ惑うストリングタラテクトの逃げ道を塞ぐように、メテオウルフがその口から無数の火炎弾を放つと、天井から悲鳴が聞こえた。


『あっちぃいい!』


 頭上からカグラの悲鳴が聞こえるけど、身体の支配権はベネッサが持っていて見ることが出来ない。悲鳴と共に糸が溶けて、カグラが落ちて地面に刺さった。


『我の扱いが雑すぎないか?』


(カグラ! 大丈夫?)


 あー。これじゃ会話出来のないかな。もう一度交代〈スイッチ〉してもらわないと……。

(よし! 交代〈スイッチ〉! あれ? 交代〈スイッチ〉出来ない?)


『聞こえているぞ』


(あ、聞こえてるんだこれ)


「ごめんなさい。宮森さんもう少し待っててください」


 メテオウルフに指示を出して戦うベネッサが、私達の会話を拾ってくれた。


(ほえ? あの、私たちの声が聞こえるんですか)


「ええ、聞こえてます。全滅させるまで待っていてください」


(はーい)


『なんだこれは 人格が二人?』


〉まるで別人みたいだな

〉ああ、剣が手元にあるのに拾わないし

〉メテオウルフを使役出来るなら、何故いままで……

〉わからんな

〉目つきも違うな

〉ああ、アホっぽさが抜けた

〉美しい……


 おいそこー! 聞こえてるぞー!


 んー。たぶんだけど、反魂の泉には死者を蘇生する効果があるって、コメントで言ってたから私がその水を飲んだことで、ベネッサの魂がこの身体に戻ってきちゃったんじゃないかな。


(えっとねー。まず彼女がこの身体の持ち主のベネッサ! それで、私は宮森涼音って名前で別の世界からこの世界に来た存在で、えーと、まぁ一つの身体に二人いるのよ! 2in1転生よ!)


「あの......。憶測ですが、私の魂が不在の間に宮森さんの魂が、この身体に入り込んだのだと思われます」


(あー、よくわかんないけど、そんな感じよ! カグラわかった?)


『ああ 頭の程度でどっちが我の主か 良くわかった』


(なんか、バカにしてない?)


『ふむ 自覚はあるらしいな』


 よくわからない状態だけど、なんだか嬉しそうなカグラの声を聞いたら安心した。


(でもなんで交代〈スイッチ〉で切り替わるんだろ)


「そこはなんでも良いと思います。私と変わる意思があるキーワードなら」


(ふむふむ)


 実は某MMORPG小説から拝借しちゃった。切り替わるってイメージが、これしか思いつかなかったの。


 私たちがワチャワチャやってるうちに、メテオウルフが全てのストリングタラテクトを倒してくれたらしく、息を切らして戻ってきた。


 まじ優秀。うちのわんちゃん。私のじゃ無いけど。


〉あの量をたった一匹でかよ

〉まぁ相性も良かったしな

〉それだよな。テイマーは相手に合わせられるからな


「グァウ!」


「よくやったわ。ありがとう。戻りなさい《リバースサモン》」


 再び魔法陣が現れると、メテオウルフは一瞬で姿を消した。あれがテイマーの真骨頂なのかな。めちゃ強いしカッコよかった。えへへ、何もしないで大量に経験値ゲット!


 安心安全な身体の中でウンウンと感心していると、ベネッサが体勢を崩し、地に膝をついた。


「うぅ……。これ以上は無理ね。変わります。交代〈スイッチ〉」


 ギュン!と視界が広がったと思ったら、私は元に戻っていた。さっきまでと違って、自分の意思で手も足も動かせる、けど……。


「痛たたたたた! なにこれ手足やばぃいい!」


『ふむ 入ったのか わかりやすい』


 ストリングタラテクトに引っ張られた手足が、ズキズキと痛む。ベネッサはこれを涼しい顔で耐えていたの?!


〉お? 動きにアホさが増したな

〉確かに……。なんだったんだ?

〉大事そうに剣を拾いに行ったな


 とりあえず、打ち身にも効くのかわからないけど蜘蛛糸を巻いて応急手当てをしてみると、少しだけ痛みが和らいだ。


「ふぅ、これで良しっと。敵はもういないよね?」


(メテオウルフは鼻が効くので、近くにはいないでしょう)


「しかし酷い目にあったね」


『我を手放して寝てしまう お前が悪い』


「そんなこと言ったって」


 この身体にベネッサの魂が戻ってくる時に、恐らく気を失ったんだと思う。明らかに記憶の混線状態みたいな感じになったし。


「あ、そうだった! ベネッサ!」


(はい。なんでしょう)


「聞きたいことが......って、あれ? ベネッサ様って呼んだ方がいい? ですか?」


(いまは貴女もベネッサですよ。呼び捨てで構いません。敬語も不要です)


「それもそっか。ありがと」


〉また一人で喋ってるな

〉俺らに見えない何かでもいるのか?

〉いるとしら、あの反魂の泉から蘇った幽霊だな

〉こえええー


 うん。やっぱりベネッサは、反魂の泉の効果で蘇った可能性が高いね。でもそうなると……。私がこの身体に入る直前まで、ベネッサの魂は入ってた事になる? いつベネッサは死んだんだろ。


 うーん、わかんない!


 あ、死んだといえば、そうそう。聞きたいことを思い出した。ずっと気になってたんだよねー。


「あの、ネルフィム様ってどうなったの?」


(ネルフィム様ですか?)


「毒殺されてどうなったのかなって」


(わかりました。お話ししましょう。でもそれにはまず、これまでの宮森さんの経緯を聞いても宜しいでしょうか?)


「あ、下の名前で呼んでいいよ! えーっとね」


 どこから話すか迷ったけど、変に情報が足りなくて誤解されても困る。私は一人で判断出来る状況ではないと思い、インチキ神に適当転生させられたところから全て話すことにした。


――配信累計時間:5時間55分


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