no15...泉、最高!
一気に天井が高くなり、小さめの体育館くらいはあるその空間は、澄んだ水と苔が生い茂り、空気の綺麗な場所でダンジョンの中とは思えない美しさがあった。
「ゲホッ。わー、すっごいね!」
『綺麗とか そういう美しい言葉は出ないのか』
「私にいまさら美しさは求めないでよ」
『それもそうだな』
〉なんだここ!
〉奇跡の泉か?!
〉マジであったのかよ……
〉なんて名前の泉だったかなー、うーん
「それよりも水だよ! 水ぅー!」
私はカサカサとゴキの如く泉に近付くと、蜘蛛糸で作ったストローで思いっきり水を吸った。それはもう人様には見せられない恥ずかしいくらい顔を窄めて。
「ズォォオオオオ!」
『貴様には 羞恥心というものがないのか』
〉うぇ、なんだあの動き
〉あいつ一応貴族だぞ?
〉あの顔はやべーだろ
〉恥じらいというものはないのか
〉メア・フェルトグランもさぞ悲しんでいるだろう
〉早く死んだ方がみんなの為なのにな
コメントから誹謗中傷が激しいが、気にしてる場合じゃない。なんとでも言え! 飲まなきゃ死ぬ。この水は全部私のだ!
「んく!? んー! ゲホッ!」
『焦って飲み過ぎだ 落ち着け』
「ハァハァ……。おいっしーーーー!」
地底湖の水はキンキンに冷えていて、めちゃくちゃ美味しかった。ここまで長かったぁ。突然、神と名乗るインチキじいさんに殺され、雑に転生させられてダンジョンを彷徨うこと数時間……。
やっと飲み物を飲めた。それだけで泣きそうなほど感激した。飲み物のありがたみが身に染みる。ありがとう、お水さん。
〉これが願いを叶える泉か
〉変わったところは無いな
〉そうだな。特にモンスターもいないようだしな
〉うーん、願いを叶える泉じゃなくて、なんだっけな
「……お腹冷えた」
『あれだけ飲めば冷えるだろう』
「うー、あれ? いまなんか跳ねた?!」
『魚だろう』
「いるの?! 魚!」
私がバシャバシャ水を飲んでたから近くにはいなかったけど、確かによく見ると遠くに魚影が見える。
「全部取る! ライジングゥー!」
『待て!』
「なによ。ライジングボルトで一撃だよ」
『そうではない 脱出を目指すなら食料は最優先課題だろう』
「そうだよ! だから早く食べさせて!」
『一度に全部殺すと 保存が効かなくなるのではないか?』
「確かに……! じゃぁ少しづつ捕まえようかな。えいっ!」
私はカグラを地面に置くと両手からピュッと蜘蛛糸を出し、水面近くにいた魚を二匹捕まえた。スパイダー男の真似が楽しくて無駄に練習してたおかげと、レベルも上がった事で扱いにもだいぶ慣れてきた。
〉あいつやはり蜘蛛人間なんじゃないか
〉糸の扱い上手すぎるだろ
〉あの魚どんな味なんだろう
〉復活の泉? 違う気がする
〉まだ言ってんのかよ。名前なんてどーでもいいだろ
「いい物みーっけ。火種にしちゃおう」
どういうわけか、木など生えてないのに泉の近くには手頃な古木がいくつか落ちていた。燃料として蜘蛛糸をたくさん巻いて、ボッと右手から火炎弾を出すと、古木は勢い良く燃え出した。
焚き火が完成したので、ルンルン気分で地面に落ちていた手頃な鍾乳石を折ると、魚を一匹だけ刺して串焼きに。もう一匹は蜘蛛糸でぐるぐる巻き。パチパチと良い音を立てて燃える魚から、香ばしい匂いが立ち込める。
「なんて魚だろ」
『我も魚は知らん』
「顔はマグロっぽいけど、背鰭の感じはアジかな?」
《ちょっと鑑定》で捕まえたもう一匹を調べると、驚いたことにモンスター判定だった。
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名 前:エンドフィッシュ
種 族:魚 レベル:2
固 有:単為生殖
スキル:水魔法Lv1
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「えー! これモンスターなの? スキル持ってるってことは、そうだよね?!」
『そうだな』
「魔核を壊せば、水魔法覚えれるじゃん! やったー!」
『これで 水不足が解消されるな』
嬉しいなぁ。魚はたくさんいるから、水魔法はLv最大まで上げていきたい。最大っていくつなんだろ?
「あれ? この固有の単為生殖って、相手がいなくても一人で子供を産めるってことだよね?」
『そうだな だからこのような場所でも繁殖したのだろう』
確かによく見れば、とても深くて奥の方の深水に魚の大群が見える。フレアラットやストリングタラテクトは水に弱そうだし、なんでここにモンスターがいないか不思議だ。
「モンスターってことは……《モブテイム》」
叫んだ瞬間、蜘蛛糸でぐるぐるにされたエンドフィッシュが眩い光に包まれて辺りを照らすと、頭の中にメッセージが流れた。
【エンドフィッシュをテイムしました】
「やったー! テイム出来た!」
『してどうする? その魚 戦えるようには見えぬが』
「え? お腹空いたら召喚して食べる」
『さすが虐待テイマー』
――配信累計時間:4時間32分
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