告白1

 ない。

 久保は目を見開いた。瞳孔がキュウッと締まり、目の奥が痛んだ。

 ――私たちの記録がない。

 引き出しに入れていた手帳が姿を消していた。あれは私たちの言葉だ。聖書だ。賛美歌だ。あれがなければ私たちの中にある祭壇には穴があく。

 なぜ、誰が。

 部屋中を歩き回りながら、今朝机の上に置いていたメモが無くなっていることに気づいた。

 そうだ、昨夜は女がこの部屋にはいた。久保は昨夜紀子を抱いたことをつい先ほどまで忘れてしまっていた。久保は机を蹴った。大きく傾いた机は食器棚に激突し、皿やコップが悲鳴を上げて砕けた。

 彼女が犯人か。それにしても、彼女がなぜ手帳を盗んだのか。

 そんなことはどうでもいい。

 あいつはどこにいるのか。私の手帳に何をしているのか。

 みつけたらどうしてやろうか。

 その時、ぐずりと胸が焼けるような痛みを感じた。

 久保は口の中で「ううう」と唸った。朝からどうも調子がおかしい。奇妙なメモ、無くなった手帳、行方の知れない女。

 ふと振り返ると、背後の壁にペンキで塗りたくったような大きな走り書きの文字が書かれていた。

「なんかいる」

 筆跡と口調からみてマツダだろうか。いつの間に入れ替わったのだろう。それにしてもこれはどういう意味だろうか。

 何がいると言うのだ。

 しばらく久保はその文字をじっと見つめていた。

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