【創作落語】外郎売らず

Danzig

第1話


語り:えー、毎度バカバカしいお笑いを、一席お付き合い願いたいと思います

語り:世の中には、言葉によって成り立つ商売なんてものがございます

語り:例えば、アナウンサーですとか、声優さんですとか、役者さんとかですね

語り:そういう方たちは、どんな言葉でも、スラスラと言えなきゃ商売にならない

語り:途中で言葉が詰まってしまっては、キチンと伝えられないですからね

語り:という事で、そういう人達の多くは「外郎売」という、発音しにくい言葉が多く使われているお話を読む事で、日夜、鍛えているらしいですね

語り:でも、世の中には、外郎売でなくても、発音しにくい言葉というものが、幾つもございまして・・

語り:とある、編集社でのお話


デスク:おい、八(はち)


八五郎:何ですか、デスク


デスク:さっき、報道部の前で、ちらっと聞いたんだが、何でも、爆発事故があったんだってよ


八五郎:爆発事故ですか?


デスク:あぁ、爆発だ


八五郎:で、何が爆発したんですか?、芸術が爆発したんですか?


デスク:バカな事言ってんじゃねぇよ、そんな古い話はもう誰も知らねぇんだよ

デスク:バスだよ、バス。バスが爆発したんだ


八五郎:バスって、あの「車」のバスですか?

八五郎:じゃぁ、バス爆発ですね。

八五郎:で、原因は?


デスク:ガスだってよ


八五郎:へー、ガス爆発ですか


デスク:あぁ、バスのガス爆発だ


八五郎:なるほど、バスガス爆発ですね


デスク:あぁ、バスガス爆発だ

デスク:お前、これを記事に出来るか?


八五郎:はい、あっしにやらせて下さい


デスク:よし、じゃぁ報道んとこ行って、詳しい話聞いてこい


八五郎:へい

八五郎:じゃぁ、早速・・・ニュースだニュース♪


デスク:おい、八


八五郎:へい


デスク:ニュースニュースって浮かれてるが

デスク:何を聞きに行くか分かってるか?


八五郎:えーっと、何でしたっけ?


デスク:バスのガス爆発だよ


八五郎:あぁ、そうでしたね


デスク:メモして行け


八五郎:今、書くものがなくて


デスク:んじゃ、復唱しながらでも行きやがれ


八五郎:へい


八五郎:バスガス爆発♪、バスガス爆発♪、バスガス爆発♪、バスガス爆発♪

八五郎:バスガス爆発♪、バスガス爆発♪、バスガス爆発♪、バスガス爆発♪


八五郎:お、ここだな。 すみませーん、バスガス爆発


渚部長:何ですか、騒々しい


八五郎:これは渚(なぎさ)部長、バスガス爆発・・じゃなかった、熊さんいますか?


渚部長:何です、あなたのその所作(しょさ)は


八五郎:所作といいますと?


渚部長:所作とは「ふるまい」の事です

渚部長:編集者たるもの、キチンとした所作が求められるのです


八五郎:はぁ


渚部長:あなた、本当に分かっているのですか?

渚部長:ちゃんと、私の言った事を咀嚼(そしゃく)して身につけるのですよ

渚部長:キチンと咀嚼した、キチンとした所作をですね・・


八五郎:はぁ、咀嚼ですか


渚部長:そうです、所作(しょさ)が悪くて、訴訟(そしょう)を起こされた事例もあるのですよ


八五郎:なるほど・・・所作を咀嚼しなかったら、訴訟を起こされたんですね

八五郎:これがホントの所作咀嚼訴訟(しょさそしゃくそしょう)、なんちゃって


渚部長:所作咀嚼訴訟(しょさそしゃくそしょう)なんて言葉はありません


八五郎:所作咀嚼訴訟(しょさそしゃくそしょう)って面白いと思うんですけどね


渚部長:まったく・・で、要件は何ですか?


八五郎:あ、そうだ、熊さん居ますか?


渚部長:あぁ、熊五郎君なら、奥に居るわよ


八五郎:ありぁーす


渚部長:ちょっと、所作よ、所作! 咀嚼なさい!


八五郎:ったく、うるさいな部長は

八五郎:お、いたいた。熊さーん


熊五郎:なんでぇ、八か、どうした?


八五郎:ちょっと、熊さんに、さっき起きた、バスガス爆発の事について教えて欲しいんだよ


熊五郎:バスガス爆発について? 一体何が知りたいんだよ


八五郎:そのバスは、どんなバスだったの?


熊五郎:あぁ、あれは、マサチューセッツ州向けの輸出車でな

熊五郎:低所得者層じゃなくて、ヨーロッパ旅行客層向けの高級輸出車だったらしい


八五郎:へー、で、バスの所有者は?


熊五郎:ミムヌグ・ムルグスチュトールだってよ


八五郎:何ですって?


熊五郎:だから、ミムヌグ・ムルグスチュトールだよ


八五郎:ミムヌグ・ムルグスチュトール?

八五郎:それ名前? 珍しい名前だな、何人なんだい?


熊五郎:知らねぇよ、外国人だろ?


八五郎:そんな大雑把な


熊五郎:大概外国国籍の人間は、外国人って相場が決まってんだよ


八五郎:ふーん


熊五郎:で、そんな事聞いてどうするんだい? 記事にでもするのか?


八五郎:いや、もうやめた


熊五郎:どうしてだい?


八五郎:もう、文字数が足らないから


熊五郎:文字数が足らないって、一体、何文字なんだよ


八五郎:1話、2000字以内


熊五郎:そんな少ない文字数で記事が書けるか!


八五郎:あぁ、俺もそう思うよ


語り:文字数の関係で記事を書く気にならなかったという、外郎売らずの一席

語り:お後がよろしいようで

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