その3「耐えろカイザー、勝利はお前のものだ?」

(あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)



 ――とにかく痛い! 生まれてここまで痛い経験俺にもない! 機械に巻き込まれるなり、挟まれるなりの経験すらないんだから!! 声なき声もとい、声にならない悲鳴が俺の胸から首を伝って、口から飛び出している筈なんだけど……! 実際言葉の一つも二つも出ないまま、ただ転げまわるしか出来ない。だって本当に痛いんだって!!


「馬鹿者! スクリューはわしが作ったんじゃぞ!!」

「えぇ~博士が作ったんなら大丈夫だよね!?」

「その逆ですよ! 博士が後から作ったんだから脆いんです!!」

「……わ、わしの技術の問題じゃないぞい!!」


 あぁ、複雑骨折って本当に痛いわと思わず泣きたいんだけど……カカオが言うには、あのドリルはそこまで強くないと身も蓋もない答えになるっぽい。通りで左手より全然スカスカで軽かったんだと、もっと早く気づいていればこんな痛い目には……うぅ、早く病院に行きたいけど! 仕事だと労災もんだよ!!


「そうやったわ! 中まで透けたらわかっとたんやけど!!」

「腕が簡単に取れるのは分かってたからの。ホントは戻したかったんじゃが」

「つける前に攻めてきましたからね……でも、大丈夫ですよ」

「そうじゃが! 根拠ない予知よりちゃんと動かさんか!」

「何か寝転がってますけど……もう一度テレジェクトだ!!」


 あいつらも俺動かすこと忘れてたみたいだけど……今は本当に痛くて痛くて仕方ないから。いつの間にか白い奴の攻撃を、のたうち回ってて避けてたみたいだけど。


「でも、ロボットも痛がるんだ~アンと同じ~」


 ロボットも痛がるって……そうだよ! 俺もともと人間だよ!! なんか一番ふわふわしてるんだけど、アンも鋭い事言うじゃん!! ちょっと嬉しいんだけど!!


「あれが、ステージの着ぐるみな訳ないでしょう。あの大きさですよ」

「せやて。ワイが見ても中に人はおらへん」


 いや、現実確かに無茶苦茶なんだけど! こういう時にカカオが融通効かないのも仕方ないし、なんかクマさん俺の中まで見られてるってなると……変な意味じゃないよね。流石にちょっと疲れてきたけど――あがっ!!


「早く動かさんか! さっきまでの勢いはどうしたんじゃて!!」


 仰向けになった俺の顔を、あいつが思いっきり踏んづけてきた。誰でも人様の顔踏んづけられてたまるかだけど……本当に腕とる気かよ!? ちょっと痛み引いてきたはずなんだけど、いでぇ!! 博士もそういってるなら早く……!!


「腕一本持ってかれてまうのは嫌やで、気張ったるか!」

「……肉を切らせて骨を断つ!博士!!」

「なんやチーフ、骨を断つって止めさすんやろ?」

「肉を切らせるんですよ! 確かにあの腕一つでしたら!!」


 ……おいおい! 急に何言いだすんだ!! クマさんがその気ならその気にさせりゃいいのに! ガムとカカオなら一応理に叶った事言うんだけど!!


「……悔しいがわしの発明もキツいからのぉ!」

「えぇ~! ガム君は大丈夫なのに博士はダメなの!?」

「話は最後まで聞くんじゃ! あと一々引き合いに出すのはやめんか!!」

「場所も悪くないですし……それよりも早く!」

「マスドライバー起動じゃて! グラニューも早くせんか!!」


 ガムと博士に打つ手があるとかだけど……やっぱり痛ぇよ!! 右手がホントすっぽ抜けちゃう!! 脱臼どころの話じゃないんだし、千切れたら接ぐの大変みたいなんだよ!! 頼む、頼むから早く!!


「あ~、早くしないとカイザーが~!!」

「アンさん! あの腕は替えが効くって話でしたけど!?」

「でも、腕が取れちゃうって壊れちゃうみたいで可哀そう……」


 うん、ホント俺の体も心も壊れちゃうかもだから! 心配してくれるアンちゃんホントいい子! 女子に優しくされたのって本当久しぶりで……うん、なんか痛いのか嬉しいのかわかんないけど今泣けちゃう程切ないけど!!



「痛みを感じないロボットだから出来る。俺達には出来ないこの手がな……!!」 



……チーフとして格好いい事言ってるつもりだけど、後で一発ぶん殴ってやるからなぁ! 今に見てやがれ……あっ!!


「ガム! 準備はできとるぞい!!」

「両足だカイザー! 思いっきり蹴っ飛ばせ!!」


 ――スポッと軽い音が俺の肩から聞こえた途端、俺はもう意識が途切れる寸前。それ程の痛みでどうにかなってしまいそうながら、無我夢中で両足を白い奴目掛けて突き上げてた。仮にそれがガムの指令だったかどうかまで気にする余裕もなく。


「カイザーのパーツなら効くからの! 即席もんじゃが……!!」


 シュガースポットの灯台が真正面に倒れ掛かれば、キャノン砲――博士がいうマスドライバーがそれを指すのか分からないけど。その時一体何が起こったかよく分からなかったんだけど、灯台から何か飛び出した。日本や世界の戦闘機がそこまで大きかった自信がないんだけど、機首と主翼は見えたからそれっぽいんだけど。


(どこかで見たような……思い出せそうだが)


 ――その何かが白い奴に思いっきりぶつかった。ちょうど俺の腕を引っこ抜いた反動からバランスを崩しかけてたみたいで、凄い速さでぶつけられて猶更足がふらつく。挙句の果てに足まで踏み外したようで、俺の視界から急に消え失せるように谷底目掛け転げ落ち、

 

「チーフはそこまで考えとったんか! 腕を抜いて奴を倒す意味やったんやな!!」

「今はそういう意味で合ってますけど、実際違いますからね! いずれにせよ」

「……わしらの技術でも敵わん。歯がゆい話じゃが」

「ビットカイザーが対抗しうる切り札……ですかね」


 ――実際、俺の力で倒したかどうかわからないけど、その話に思わず頷いたのは何故だろう。足を突き上げた勢いでどうにか立ち上がった途端、今まで聞いたことがない程の爆発が聞こえた。崖下からモクモク煙が上がっていたから覗き込んでも、あの白い奴は何処にも見えなかった。だとしたら、


「わーい! やっぱガム君なら本当出来るんだ!!」

「いや、俺のおかげか分からない。恐らくまだ上手く動かせるかも」

「ガムの言う通りじゃて、お前らはまだまだ隙が多いからの!」

「実際に動かしてから言ってほしいですけどね。私ですら分からないんですし」


 ……いや、正直隙が多いというか、そのもう少し優しく労わってくれません?頼みますから。これからも腕の一本二本ぐらいみたいな事やられたら流石に……ってこれから?思わずその流れで言っちゃったんだけど。


「でもとりあえず倒せましたからね。これで私も……」

「いや、まだ第二、第三の……いつになるかわからないが」

「えぇ? チーフがそう予知するならと言いたいんですけど、いつもよりアバウトじゃ?」

「カカオの言いたい事もわかる。俺が予知できるのは漠然と10分か20分ぐらい迄だと」

「私の記憶もここ最近でしたから……認めたくないですけど」


 ガムやカカオですら分かり切ってないなら、なおさら俺だって分からない。ただガムがまだ戦いは続くと予知してきたんなら、最悪それも覚悟しないといけないのかな。なんか少し憂鬱、それ以上に足の震えが続くんだけど。


「今回確カに勝チマシタが、アレは一緒に……」

「あぁせざるを得なかったんじゃ。分かるまでの時間がなかったんじゃて」

「デシタラ、早クカイザーの研究シマショウ。アノ腕もデスシ」

「カイザーの強さの秘訣を知らんとのぉ……わしの為にも繋がるし」


 博士は一見最もな事を言っているけども、少し気味が悪い笑顔でポテチを貪りながらグラニューと駄弁っている。正直真面目なのか暢気なのか分んないんだけど、けど……



(……ホント、悪い夢であってほしいよ)



 目が覚めたら巨大ロボット、あいつら俺の腕がどうなったっていいように動かす訳だし、俺は一応勝ったといえば勝ったんだけど、本当俺だったから勝てたのかわかんない。しがない派遣社員の俺がこう戦えたのも今思うと不思議というか、おっかないというか……足が冷たいのもそれかな。冷却水みたいなのが垂れてるから、ちょっと……ね。

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