その4「カイザーは奪い返せるか?」

「えぇぇっ!? 壊されちゃったのミルソン君!?」

「……何でそこで私に振るんですかね」


 ――とある一室。小さなオフィスのようなスペースに背広服の長身と、少し恰幅が良いツナギの男二人。彼らに対して結果を報告する相手は漆黒の鎧に身を固められ、オフィスとは明らかに場違いなものの、淡々と報告を続けている。背広の彼が思わず委縮してしまい、ミルソンという隣のツナギは半ばいつもの事と呆れ気味。


「ビットカイザーを前にトキシルエットでは歯が立ちません。スペックからして分かる筈です」

「あのねソウス君、それを言ったらそうなんだけど……」

「起動する前にビットカイザーを回収、最悪の場合は破壊――隊長はそのプランで行くと決めましたから」

「多数決なんだけどね。あと私はただの係長だから隊長ってガラじゃ……」


 背広姿の人物が隊長だが、そもそもその隊長だった元係長は現地の仕事はお門違いと言いたげ、ビットカイザーとの武力衝突を想定しきれていない様子だった。現場を取り仕切っていたソウスという黒ずくめが淡々と状況を報告しても、隊長は自分の専門外だと言葉を濁していたが、


「元係長のあなたが今まで仕切ってたんでしょう! ソルト隊長!!」

「そ、そりゃそうだけど……ミルソン君だって」

「ですから、シルエットは私がどうにかしますよ! プランは貴方が決めてたでしょう!!」

「今まで課長の指示でやってただけで……こんな仕事やるとか考えてないもん」

「隊長がいじけてどうするんです! 私も手伝いますから!!」


 隊長のポジションに君臨するソルトというこの男――何やらヘタレ気味の中間管理職らしい模様。№2かつ現場経験があるミルソンは内心面倒ごとを相方に押し付けたい下心があれど、この地に赴任してもヘタレが治らない相方を見捨てきれない様子だが、


「隊長、私の発言権は認められますか?」

「ソウス君、そんな堅苦しい許可要らないから。正直誰でも手を借りたいぐらいだし」

「そこは同感です。彼のほうが現場経験ありますし」

「有難うございます。改めてプラムスパイ先遣隊の一員として言わせてもらいますと……」


 3人の中ではソウスの立場は低い様子だが、ビットカイザーとの武力衝突が起こってからは一変しつつあった。ビットカイザーを狙うプラムスパイ先遣隊たる面々は、最初の作戦が失敗した事を受けて次の作戦立案に入り、


「少なからず戦闘に耐えうるシルエットにしましょう。私が見ました限りいくつかは」

「確かに出来ないことはないが……相当手を加えないとな」

「そんなぁ……もう一度戦っちゃってるんだし、先遣隊の事もそんなに……」

「ですからまず、すぐ出せるシルエットを決めましょう。その間にも」

「詰まる所、まず私が選別しろと。囮以上の働きを前提とするなら……」


 ビットカイザーに対抗しうるシルエットを完成させる為、その時間稼ぎ、囮になりうるシルエットをぶつける――ソウスの案はその場しのぎな点少なからずあるが、ビットカイザーが先遣隊からしても未曽有の相手かつ情報が少ないため、


「少しでもビットカイザーの情報を集めましょう。おそらく相手も同じ状況です」

「こっちでも分からないんだ。簡単にビットカイザーが分かる訳」

「ないといいよね……なんか出世競争みたいで、胃腸が……」

「……また始まった。係長の頃じゃないんですよ?」


 データ収集を兼ねたシルエットをぶつける方針で、ソウスとミルソンの見解は一致した――ソルトだけは係長気質が抜けないようで、自分にとって不慣れな出世レースにこの地でも挑むのかと別の意味で不安に苛まれている。相方からすれば何時もの病気に近いらしいが、少し嘆かわしい事に変わりはない。


「本土に帰れるかだから、負けられないんだよ。ビットカイザーだろうと!」

「如何にしてシルエットを動かしているかですが、経験と実績には分があります」

「……な、何事もなく、どうか丸く収まりますように」

「もう既に事は起こってますよ。気持ちはわかりますけど!」

「……だよね」


 プラムスパイ先遣隊として、ビットカイザーの回収及び破壊が本土への帰還条件に掲げられている。彼らは左遷されたような経緯だけに、畑違いだろうと未曽有の相手に負けられないと意気込む――隊長一人が必死に望む”みんなまあるく”収まらないが彼ら先遣隊の現状ではあった。

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