その2「燃えろ派遣社員!シルエット・ウォーカーを打ち砕け!!」
(行くぞ悪党、怒りの一撃……!)
――あの瞬間、こうなる事なんて考えてもいなかった。パンチングマシーンを思いっきりぶっ叩いたのも所謂八つ当たり。100円入れなくても殴るだけはタダってどんだけボコボコにしたかわかんないけど。なんかサンダーパンチ、サンダーボルトパンチ、バーニングファイヤーとか才人が言ってたみたいな技を叫んでた気がして、一体あの時どんだけムシャクシャしてたんだろって今更後悔しても遅いんだけど。
(まさかあれで転生しちゃった系か……だとしても、これは、これはなぁ……)
――それでマシンが思いっきり爆発して俺も巻き込まれたっぽい。弟から洗濯機や自販機に転生する漫画あるって聞いてたけどさ、流石に巨大ロボットに転生とか笑えないよ。もうこれは悪い夢だって思わないと流石にね、なんか時間ないみたいだからパニックしてる場合じゃなくてさ、いや自分でもよく落ち着いてられるなだけど、
「
さっきから博士が変な顔して笑ってるし、蒲焼さんや焼肉さん貪りまくってるんだけど……俺もまだ状況つかめてないし、多分誰だって何が何だかだと思うから改めて。
(俺、
自分でも情けない程落ちこぼれのみそっかす。冷静になろうと
「ほぉ、着替えれば多少は様になってるのぉ」
「……正直、これで精度が上がるとか信じ難いですが」
「アンだけなんかキツそうやな? 大きさミスったんか?」
白、黒、抹茶、あがり、コーヒー、柚子……じゃないけど、派手な恰好。この流れ的にパイロットスーツのお披露目と才人がはしゃぎそうな展開なんだけど。まぁクマさんですらサイズに余裕あるのに、アンだけ……うん、スタイルも悪くないって認めるんだけど。
「ソレは、アンのサイズギリギリ、ギリギリで作リマシタカラデス」
「……アンのサイズ?」
――急に黄色い奴も来た。何かデスクトップに腕とキャタピラが付いたロボットがとんでもない事言ってきた。ガムが思わず目の色変えてるし、博士ビクッてなってるし、
「昨夜、睡眠薬を入レマシタ。博士カラの指図デス」
「昨夜……あのブラックですか!」
「ハイ、眠ッテイル間に測定シマシタ。靴下はソノママにシマシタガ」
「……」
カカオが死んだ魚のような目で博士を見下す……流石に俺でもそれはなぁ、昔陸上の顧問がそんなことしてたけど、学校からいなくなってた訳だし。それと同じ事やってるんじゃ
「ガム君ひょっとして照れてる!? 私見てだよね、ねぇ!?」
「……いや、それより大丈夫か。流石にその恰好はだな」
「へへへ、ガム君がドキドキしてるから嬉しいかも! 久びりにね!!」
「そうなんじゃて! これも動かすためじゃて!!」
けど当の本人は案外……なんか都合よく博士がしゃしゃり出て来たんだけど。
「それが体にフィットする程エスパーの力が増すんじゃ! 本当はお前さんらにも用意する筈じゃったんじゃが……」
「博士はアンダケでイイと。真芽は……」
「黙らんかい、グラニューは!!」
凄い胡散臭い事を言っててる上に、博士は半ば口封じでグラニューとかってロボット蹴っ飛ばしてダウンさせてるんですけど。猶更カカオ絶対引いてるんなら、ガムも流石に……。
「そうでしたか……もう少し余裕があれば、俺たちも」
――いや待って、さっきからガムが震えてるのもそりゃそうだって分かってたんだけど。なんか斜めに話転がってるんじゃ。
「そうじゃて! これもやむを得ず、出来る限りのことはしようと!!」
「……非常事態でしたら、仕方ない事にします。博士がそこまで考えているみたいですし」
「博士もチーフもそう言っとるっちゅう事は……ええんやな!!」
「真芽ちゃん、大丈夫~? 具合悪いの~?」
……うん、ガムも抜けてるというか天然というか。ちょっとカカオだけまともで可哀そうな気するけど。ちょっと俺もなんというか、こいつらに任して大丈夫……?
「とにかくその話は後じゃ! 既にそこまできとるぞい!!」
「そうですね……!みんなもう一度だ!!」
「「「「テレジェクト・フォーメーション・スタンバイ!!」」」」
――なんかよく分からないまま、博士にその話が有耶無耶にされた気するんですけど。そのままフォーメーション組んで俺を睨んでて話が一方的に進んでるし、
「このシュガースポットで迎え撃つんじゃ! くれぐれも街に出してはいかんぞい!!」
「はい! みんな、初陣だが落ち着いていくぞ! !」
「そうですね、チーフが言うからには勝つと……」
「根拠はないがそう見えた。だからと言って油断は禁物だが!」
やはりチーフと呼ばれるだけあって、こういう時は頼もしいな。俺も初めてだから深呼吸の一つや二つはしたいと思った途端、突然足場が動いた。まるでジェットコースターに立ち乗りしている気がするんだけど、この体だからか尻餅もつかないし、投げ出されるもしない。こういう時に限ってこんな体で助かったんだけど、
(今度は水……!?)
「「「「「カイザー・ゴー……!!」」」」
コントやバラエティ番組の比ではないくらい、頭上目掛けて大量の冷や水を浴びせられた。思わず俺は目を瞑りたくなるし、鼻も摘まみたくなるけど……今の俺に瞼もなければ鼻が何処かもわからない。だからこういう手荒い歓迎も一筋汗が流れる位と思えば自然と手荒い水の歓迎も受け流していた。
「テレジェクト・イン! カモン・カイザー……!!」
今度はモーゼが杖を掲げたよう水面真っ二つ。俺の目の前には湖と地面をつなぐ一本道もはっきり見える。その先は……あいつだ!こうしてみると、悪魔というより藁人形、いや昔持ってたデッサン人形にも白い奴が見えてくるけど。
「敵はただののっぺらぼう! ぶちかましたる!!」
クマさんが言う通り、あの白い奴にビビる気配すら感じやしない。気のせいか俺の足もまっしぐら……さぁて、どんな姿にしてやろうか、デッサン人形のデカブツ……
(シルエットウォーカー・汎用量産タイプ、トキシルエット……?)
――ふと聞きなれない単語が頭を過った。シルエットとか溶き汁とかデッサン人形のデカブツか? そんな事考えてたら、いつの間にあいつの目の前まで来てたから、
「まずはクエイカー・アームだ!!」
ガムの声とともに、重たい左手”クエイカー・アーム”が軽々と持ち上がった。すかさず俺が強く拳を握ってグーパンをぶちかましたら――思いっき奴を弾き飛ばしてやった。
(これが……俺か!?)
――この前のパンチングマシーン目掛けてぶちかました時と全然違う。この体にこの大きさだからと思うけど、ここまで腕っぷしが強い俺とかちょっと自分でもわかんない。何か凄い体がフツフツ火照ってるんだけど、さっき博士が言ってた感じ……!?
「すごぉい! ガム君初めてなのに!!」
「アンさん! 集中してくれないと困ります!!」
「カカオの言う通りじゃて! さっきも言ったが一人でも欠いたらのぉ!」
アンが気を抜いたからかもしれないけど、多分俺も同じ気持ちだと思う。博士が言ってた体に流れる正義の力で、唸れ!パンチをやってたんだし。思わず崖っぷちまで飛ばされたあいつが立ち上がる隙を与えちゃったけど、
「何をしとる! 今飛び道具もないんじゃぞ!!」
「走れカイザー! 一気に詰めるんだ!!」
万力にせよ、ドリルにせよ確かにそんな飛び道具を今の俺は持ってない。なら白い奴を逃がさないでボコボコにすれば問題ない。さっきからして間違いなくこいつより俺のほうが早いんだし。あいつも立ち上がってファイティングポーズみたいな構えで決めちゃってるけど、
「タイマンはええ根性しとるが……がら空きや!!」
あいつらの中で喧嘩慣れしてそうなクマさんの事だ。真正面まっしぐらな俺も自然と前屈みになって、目の前の白い奴の懐に潜り込んだ途端、クエイカー・アームで左肩をつかんでやった。何故かこっちの体もブルブル震えているんだけど、
「よぉ仕組み分かっとらんが、心の臓にぶちかましたる!!」
「……駄目だクマさん! カイザーの右手は!!」
「今度はスクリューアームや! カイザー!!」
――なんかガムの止める声も聴いたんだけど、さっきから右手がお留守だしね。才人の奴が言ってた”ドリルはロボットのロマン”って分かるかも。俺のドリルがグルグル回ってるのし、俺もウズウズしてたから。
(これで決まった! スクリューアー……!?)
間違いなく、俺のドリルが相手の柔肌に触れた途端――まるでプレスされたのか、目の前で見事潰された。確かドリルは風穴を開けるものだった記憶なんだけど、逆に穴をあける前に右手がペシャンコ。とんがりコーンのような形は跡形もない……”コンナハズデハ”と。これで五体満足でなくなったかと気づく前に、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます