第1話「おれはロボット、目覚めてみれば!」

その1「四人のエスパー戦士、無敵のマグネロボット・ビットカイザー」

『金平町の方は第3区、第3区ですから! 慌てないでください‼』

『早く車から降りてください!命に関わりますから!!』


 ――目を覚ますと、何処か知らないけど大変っぽい。

 ――何か警察の人が金平町だとか、何処か分からないけど大変っぽい。


『必要なものだけ持っててください! 周りの人の迷惑にもなりますから!!』

『そこの人、列を守ってください! 大丈夫ですから!!』


 プラズマみたいな薄いディスプレイかな……離れた場所だから凄い小さく見えるんだけど。気のせいか何か凄い見える。あの人のキャラクターストラップがはっきり誰かわかるんだし。こないだの健康診断で0.7。コンタクト入れてもそうなんだから、俺そこまで視力あったがなんだけど。


『大丈夫だぁ!? 月曜日はウンジャラゲなんだよ!?』

『だから大丈夫じゃねぇんだよ! 分かるだろ!!』

『落ち着いてください! 確かに大丈夫だぁとは言えませんけど!!』


 ――何か酔っぱらってるのか知らないけど、警察の人と揉めてるな。警察や自衛隊の人がこう避難誘導するのテレビとかでよく見るんだけど。俺って生まれて一度も経験し事ないんだよな。また地震雷火事……ってこのご時世だと地震に津波に噴火の何れかだろうなだけど、本当最近増えたなぁ。


『海自はまだですか!? こっちも何時までこうしてられるかわかりませんよ!!』

『来年とかじゃねぇよな、誠に遺憾とか言ってるだけじゃ……!!』


 ――大丈夫じゃないと言ってたけど、本当に大丈夫じゃない、正直大丈夫じゃなさ過ぎて思わず目を疑いそう。迫る影に振り向いてみて、床が抜けたように腰を抜かしたのもすっごい分かる。画面を埋め尽くす白い奴を見たら俺も同じふうになっちゃう。


(ロボット……だよな?)


 俺は目を擦ろうとも顔を抓ろうとしたけど……何故か身動き一つとれないしない。やたら重い左手もだけど、まだ軽い右手も指先一つでさえ。肩こりはしょっちゅうだけど、こんなに左だけ重いのも今までになかったんだけど。仕事で重い物は両手で持っているんだし。

 まるで鉄のように重いんだから、今度整骨で見てもらおうか。予約入れようとか来週の予定を俺は考えていたんだけど、


(これはメタフィクションとかフィクションのパターンか? あいつが言ってた感じの)


 ――日常からかけ離れていく非日常が、俺の目の前で繰り広げられる。夢か、虚ろか、幻かって目を擦ろうにも擦れないし、瞬き一つ出来やしない。ずっと目を開けるのって、乾燥しちゃうから無理だって俺にもわかるけど、何故か瞬きなしでも痛くない。

 はっきり言って不思議だけど、そんな俺の疑問が些細な気がするほど、先ほどから一方的に非日常を見せられている。信号どころかビルやマンションよりでっかく、画面に入りきらない白い奴が俺の視界に居座ったっまま。


『落ち着いて! 落ち着いてくださ……うわぁぁぁぁっ!!』

『せ、せせ先輩!待って! 待ってって、待ってくださいよぉ!!』


 みんな列を作ってなどいられなかった。必死に呼びかけ続ける警察の人も地面を這いつくばって後を追ってた――かっこ悪いかもしれないけど、あんな白い奴いたら俺でもそうなるよ。


『くるなぁ!』

『避難するのを楽しませるなぁ! 白い悪魔ぁ!!』


 才人が言ってた白い悪魔ってそういう意味じゃないんだけど、多分同じ事起こってるよ。みんなパニックになってるのけど、さっき乗り捨てられた車がそいつに呆気なく踏みつぶされるとね……画面越しの俺でも縮こまってた間に映像が途切れた。


「……これが敵じゃて」


 少し視界を下げたら人の姿――まるでドールハウスの人形に見えるんだけど、姿、格好も、動いている様子を見てたら絶対本物。ミクロの世界だろうと三銃士どころか、五人くらい俺と同じ人間がいる。でも俺、一体何処から見てるんだろう。


「……正直な話、認めたくないんですけど」

「まさか、本当に予想通りとは……」

「予想も何も、予知しとったんじゃろ」


 たとえ小さくても俺の目にははっきり映る。眼鏡をかけたチビと銀髪の彼は白い奴を現実だと認めてる。正直俺は夢だと思って”これまで”をフィクションだと割り切って聞き流したいんだけど、あの銀髪は”予知した”って爺さん言ってる。ますます胡散臭いんだけど。


「まぁ導かれたんじゃて、お前たちは」

「イマイチピンとこないんですよね。確かに最近頭がスーっとしましても」

「真芽ちゃん! 運命だよ、運命!!」

「名前はやめてください。カカオですから」


 眼鏡のチビはカカオ。”ちゃん”って呼ばれてたんだから一応女の子なんだけど……ピンクの子に比べると霞むかな。彼女割かし可愛いんだし。


「だってガム君がいるんだから、アンもいる! そうだよね~」

「確かに一緒に呼ばれると予知したが……少し場所を選べ」

「へへ~やっぱ一緒だよね!」

「……クマさんもカカオもそこに居る。だからな」


 ――彼女、あの銀髪の”コレ”か。ガムとか呼ばれてるけど顔は確かに良い。少し前まで俺もイケてたけど、全盛期でもかなわねぇ。悔しいけどそれ位イケメンなのは認めてやる。俺と違って彼女持ちなの気に食わないけど。


「相変わらず見せつけるなぁ~カカオ!」

「私に振らないでくださいよ! 確かに会ってからもう12回ですけど」

「やっぱココが違うんや!空弁と幕ノ内でちょうどや!!」


 ――消去法でいったら、番長みたいにガタイがいい学ランがクマさんだな。知恵と力のパターンなのかもしれないけど、カカオといいコンビかな。


「……フルコースと言えどオートブルも来とらんがの」

「漸くオートブルですかね、長塔博士」

「予知した通りじゃが、下らん話は後じゃて」


 この爺さん、確かに博士っぽい恰好してるけど……流石にその腹はヤバいんじゃない?真面目な事言ってる気するけど、あんころ餅を平らげて言う事じゃない気するけど。


「あのロボットはこっち目掛けとる。ビットカイザーに向かっとる」

「到達まで凡そ10分、ギリギリですけど」

「じゃからカイザーで迎え撃つ。一度は動いたんじゃからの」


 ビットカイザー……?あの白い奴相手だとロボットにはロボット、才人が言ってたパターンあるあるか。ぶっつけ本番でロボットが動くってケースも在るは在るから、それよりは流石に、


「……動いたのは右手だけで、誤差の範囲ですよ」

「けど何で動いたんかのぉ~いくら中まで透けてもよぉ知らんで!」


 ――前言撤回。オーナインかダブルオー、オーオーナインナインか知らないけど、博士の自信は何なんだよ。それにクマさんとか、なんかジロジロ見てるけど……ロボットだよな?


「大丈夫だよ! アンとガム君いるから動くって!!」

「クマさんとカカオの助力あってだ。前より動くまでは分かる」

「……チーフが言うなら信じますけど。よくわからないですけど当たりますしね」

「せや! 俺が考えても分からへんからの!!」


 アンの自信はガム頼みだけど、あいつが予知してまで言ってるからか? クマさんはともかく、インテリみたいなカカオが従ってるし。


「そうじゃて! カイザーはわしが見つけても動かせなかったんじゃが」

「サイキックかニュータイプか知りませんが、……所謂エスパーだけ操れると」

「つまり、ワイらエスパー四人、光速エスパー戦隊とまぁそのまんまやな」

「……そのまんまな名前は駄目じゃ! 見つけたのはわしじゃて!!」


 ――四人ともか。クマさんがジロジロ見てたのも、カカオが十二回とか覚えてるのも光速エスパー戦隊だから……って、流石にその名前は何かその、眩しいというか光るというか。明るいは違ってた気がするけど。


「チーム名は後にしましょう。それよりも早く」

「そうじゃな、テレジェクト・フォーメーションといくぞい!!」

「各自スタンバイ! カイザーに集中だ!!」


 チーフと言われてたからか、ガムが四人を仕切る。十字に並んで揃って腕をクロスさせるのは分かるんだけど――なんか揃ってこっち見てるよ。それも皆、目力凄いんだけど!! そんなに見られたら流石になんというか、その……あっ!


「前より動いてますよ! ガムさん!!」

「あぁ……前より動く筈とはいえ、まさかこれ程」

「流石チーフ! 左手もや……!!」


 ……本当に動いてる! 右手もだけど左手も!! なんか凄い時間がかかった気するけどこれで漸く……でもさっきから何かグルグル音聞こえたりしてるんだけど


「流石ガム君! これでもう大丈夫……」

「気を抜くなぁ! 一人でも欠けたら動かんぞい!!」


 アンがはしゃいだ途端、急に俺の視界がガタっと下がる。まるでうなずいた様に足元を見るけど……何だ? このブロックみたいな偏平足? まるでロボットみたいだし、左手がカチカチできるけど、指の感覚は……あれ?



 (な、なんじゃこれは……どうもさっきからおかしいと思ってたけど)



 厳しい事言っときながら、博士はガブガブコーラを飲み干してるんだけど……それより一体俺は何なんだって気が気で仕方ない。いつの間にこんな体になってた、浜松に住んでいた俺は一体どうしてた。発動機を組み立てた派遣の俺はそりゃ、そりゃなぁ電動ドリル使ってたけど……幾ら何でも右手が天を衝いてた筈は。待ってくれ、待ってくれよ! 俺は五体不満足……いや、五体あるとしてもこれは夢か幻か、一種のフィクション、そうだ、そうに違いない、そうに決まったが。


「間もなくカイザー発進じゃて! 最終チェックに入るぞい!!」

「各自テレジェクト・オフ!」


 フォーメーションが解かれると共に、俺の体もまた金縛りに遭ったように両手が真下にぶら下がったまま。また指一本ピクリと動かせないが――それよりもモニターが鏡のように今の俺を映す。蛇に睨まれた蛙の例えはこういう時に使うか知らないけど、俺は蛇に睨まれたよりもだな、この赤い奴一体誰だ? 俺はこんな無愛想どころか無表情、そもそも顔がない人間ではない筈だが、


(その胸、その腕、その脚も、全てが戦う武器になる……じゃなくて!!)

「お前はロボット、言葉は出ないかもしれんが」


 途中余計なこと考えていた気がするけど、間違いない――この万力も、ドリルも、他人であってほしい偏平足も間違いなく俺だ。俺が先ほど動かしていたものに変わりはない。博士もあぁ言っているんだとしたら……!!


「体に流れるのは正義の力じゃ! ビットカイザー!!」


 博士がカッコよく決めているけど!俺はそんな余裕もある訳ない! この俺、もともと浜松の派遣社員・尾藤硬磁(びとう・こうじ)!いきなり目覚めた結果がこれだって信じられないけど! 第二の人生がこれだって信じたくないけど……!!


(ロボット、まさにロボット……”おれはロボット”だよ!これは!!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る