第34話
人気を全く感じられない家の玄関先でうろちょろしている男がいたら不思議がられるだろうか。いや、怪しまれるよな。でもそんなことを怪しんでくれる人がいるほど住宅地ではない。畑に囲まれた家は陸の孤島みたいだった。助けを求めてもみんなには届かない感じの。
「あのー、すみません……紺野さん、いらっしゃいます、か」
インターホンを押しても案の定というべきか、誰も出てくれない。仕方なく玄関に行って声をかけてみても返事なし。本来なら帰りたいところだが、今日は紺野さんから来てくれないか、というお誘いを受けたのだ。無断で帰るわけにはいかない……にしても、本当にいるのか……?
初雪を目にしたからだろうか、なおさら外にいるのが寒く感じて少しばかり風から身を守ることができないかと庭を見てみたものの、特に雪宿り出来そうなものはない。もう一度、庭を出て門の外を見てみるも、手がかりになりそうなものは何一つ見つから……あれ?
(車に気をつけてね)
そう確かに紺野さんは言っていた。あの時、僕は家に来るときに車とぶつかったりして事故を起こさないようにね、なんていう意味で捉えていたが、もしそうじゃないとしたら……?黒のワンボックスカーに目を向ける。運転席もそのほかの席にも人がいる気配はない。
何だかとてつもなく悪い予感がして急いで玄関の方へ戻った。そういえば、前に姉さんが言ってたな、人間は悪い予感が当たりやすいって……ドアノブに手をかければガチャリと、鍵が開く音がした。
失礼します、と言葉だけの挨拶を述べて豪邸に入る。紺野さんと、彼女のおじいさんと、執事さんと僕の三人であったあの居間で、うつ伏せに倒れている一人の人間の影。長い黒髪は下で広がっている赤い液体に染まっている。
「……さん、紺野さん、なんでっ……」
僕が放った言葉は誰の耳に入ることもなく大きな家の静寂に消えていく。
「好きだったよ、百合華さん……」
やっと言えた、僕が一番君にプレゼントしたかった、あい言葉……
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