第33話

なぜ今日紺野さんが僕を家に呼んでくれたのかはわからないが、彼女なりの理由があるのだろう、と思って承諾した。紺野さんは保健室からそのまま帰りの会を受けずに早退し、そのあと帰りの会を終えた僕が紺野さんの家に向かうというプランだった。


「荷物、ありがとね」

「いや、全然」

早退を聞いた僕は紺野さんの荷物を持って彼女に届けた。冬休み直前だというのに、その荷物は異常なほど軽かった。

「荷物、少なくない?僕忘れてきちゃったものあったかな……」

「いや、多分大丈夫だよ。今日、本当は休むつもりだったけど、やっぱり怖かったから……昨日までに教科書とか結構計画的に持って帰ったんだよね」

「え、今日サボる予定だったの」

「まあ、そういう日もあるじゃん?」

危なかったーー!今日休まれてたらプレゼント渡せないところだったじゃん……

「じゃあ、また、あとで」

「うん」

「あっ」

「ん?なんか、忘れ物した?取りに行くよ」

「ううん、違くて……車には気をつけてね」

「……うん?」

じゃ、と手を振った彼女は……


いつもより長く感じた帰りの会が終わり、僕は急いで防寒具を着用。冬休み前でうかれるクラスの雰囲気の中で誰にも気づかれぬまま、一人外へ出た。

「あ、雪……」

初雪だった。紺野さんは気づいているだろうか。会ったら、教えてあげよう。


ガタンゴトン……ガタンゴトン……

規則的に揺れる電車の音は普段は僕を眠気へと誘うが、紺野さんと会う時に乗る電車はやはり緊張する。しんしんと、という言葉が似合う雪景色を眺めながら、どうして彼女が僕を今日家に呼んだのかを考えていた。付き合っているわけでもないのに人前でプレゼントを渡すわけにはいかなかったからそれはそれでよかったんだけれど……

「……お出口は左側です。」

電車の放送を聞いて慌てて立ち上がる。

一度だけしか来たことないのにもうどの出口から出ればいいのかや、歩くべき方向はわかっていた。いや、むしろ、足が勝手に動いていった。あのとき、紺野さんの執事さんが運転してくれた車の中で見た景色と今自分が見ている景色を照らし合わせながら、少しづつ足を進めていった。僕の記憶力すごくない……?なんて思っていられるほど心に余裕はなくて。前来た時同様に、黒のワンボックスカーが停まっている道に差し掛かり、思わず立ち止まる。前と全く同じ場所じゃん……駐車場ならまだしも結構道のど真ん中よ、しかも人の家の……。そしてまた驚く。

「ベンツないじゃん……」

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