第32話

二十三日朝、異常なし。いつも通り、畑山先生が朝の会を始める。

「ええ、今日は終業式の日ですね。四月から始まったこのクラスにいられるのもあと三ヶ月。みんながあと残りがないように新しい年を迎えられるようにお待ちかねの通知表を配って今年は終わりましょうね。ちょっと、そんな嫌な顔しない!みんなの現状を教えてくれるものなんだからな!」

通知表、という言葉で一気に胃が重たくなった気がする。そこら中からブーイングが出てもこれが変わることはないから仕方ないか……

僕の頭の中のシュミレーションでは帰り道、一緒に帰ろう、と誘い出し、その場の雰囲気で渡す、というかなり雑な計画だったが、多分うまく行くだろうという予測はしていた。一番の難関はといえば図書委員の仕事があるわけでもないのに一緒に帰る約束をするところだが紺野さんなら快く了承してくれるに違いない、そう踏んでいた。だが、僕は案外この勘とやらが当たらないということを忘れていた。

「すみません、ちょっと体調悪いので保健室行ってきてもいいですか?」

四時間目の化学の授業中であった。体調不良を訴えた紺野さんは自力で保健室まで向かった。足取りがそんなに重くなかったからすぐ帰ってくるだろうと思っていたが、六時間目になっても一向に帰ってくる気配がない。通学鞄は机の横にぶら下がったままなので帰ってはいないはずだが……

「新美くん?なんか、先生が呼んでいるよ」

教室で黒板掃除をしていたとき、クラスの女子が僕を呼んだ。あ、名前覚えててくれてたんだ……

「すみません、急にお呼び出ししちゃって……今保健室にいる紺野さんが図書委員のことでどうしても直接伝えたいことがあるとかで新美さんって方を呼んで欲しいと言われまして……」


「体調、大丈夫なの?」

「……うーん、まあなんとか平気」

「無理しない方がいいよ」

「……優しいね、新美くん。ありがと」

「……別にっ……僕に伝えたいことって何?今日、図書委員の仕事なかったよね?まあ、あったとしても今日は僕が一人でやるから先帰って休んだ方がいいよ」

ううん、違うよ、と紺野さんは力無く頭を振った。


「今日、うち来れないかな?」

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