第31話

「……えええええええええええ!」

「そんな驚く?」

姉さんお得意のハンバーグが食卓に並ぶ夕飯の時間。サラダをよそっている時に姉さんの声は部屋中に響き渡った。こういうとき、元からまんまるな目は僕の目をがっちりとホールドして離さないので急いで目をそらした。

「クリスマスプレゼントあげないの?」

「……だって、付き合ってるわけでもないし……」

「いやいや、家に呼ばれた時点でそれアウトだよ?」

今まで女子との交流をさらさら体験していなかった僕は女の子の家にお邪魔する時に着ていく服をどうすればいいか姉さんに聞いたことを今更ながらに後悔した。

「アウトって何だよ、アウトって」

「それはもうあっちは意識してるってことじゃないのよぉ」

「……それはないと思うけどなぁ」

バンッ。急に姉さんが手をついて立ち上がる。

「な、何……?」

「決めたわよ、絢世。プレゼント、買いに行くわよっ」


「ねえ、見てこれかわいくない?あ、まってこっちもかわいいー!どうする?」

こうなることはわかってた、はずだった。かれこれ三時間ほど、同じショッピングモール内をうろついている僕たちはそろそろ店員さんに目をつけられそうだった。なぜこんなにも決まらないのか。僕が優柔不断なのではない。

「この色いいよねえ。どう、こっちとこっちだったらどっちが彼女に似合いそう?」

「……別に彼女じゃないけど……どちらかと言えばこっち……?」

「うーん、ブルーベースの子なのかなぁ。でもそうしたら、さっきの方が似合うか……ああああ!待ってこれ良くない?いいよね、いいよね」

この会話がおそらく二十回ほどは繰り返されているであろう。数えてないけど。

でも久しぶりに姉さんがこうやって買い物を楽しんでいるところを見たかもしれない。いつも家事に僕の送迎に、大学の勉強に……たまにはいいか、こんな日があっても……。


「やっと買えたぁ……」

「ねえ、やっぱりそれでよかったかなぁ……?喜んでくれるかなぁ、百合華ちゃん」

おい、姉さんが不安がってどうするんだよ……

僕が紺野さんに買ったのはベージュを基調とした裏起毛の手袋と柚子の香りの今人気らしいハンドクリーム。手袋は今の季節には必需品だし、あの大事にしているマフラーにもぴったり合いそうな色だったから……手が荒れがちな今はハンドクリームもそっと添えたらもういい男よっ。と姉さんに背中を押してもらえた?のでまあよしとしよう。

「……これいつ渡せばいい?」

「そりゃクリスマスイブでしょうよ」

「学校ないのに?家を知っているとはいえ何も言わずに押しかけるのは違うよね……」

「ばかっ、ストーカー化するのは絶対やめなさいよ!人の印象は一度下がったらあげるのはかなりハードルが高いんだから」

「……わかってるよ」

あーあ、いつ渡せばいいのやら。前日の23日なのかな、終業式の日。

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