第30話
「ねえ、もう12月だよ?」
「そうだね」
いつも通りの図書委員の帰り道に。ベージュと黒を組み合わせた定番の色のマフラーを身につけた紺野さんはいつもよりもっともっと綺麗だった。決して長くはないスカートから伸びる足も視覚的に刺激が強い。
紺野さんの家に行った時のことはあの月曜日以来口にすることはなかったし、もしまた彼氏役を頼まれたとしても断るつもりだった。でも、そういう話題じゃないってことを知って少しばかりホッとする。
「一年って早いよね」
「早いね」
「私一年生の頃何してたか全く覚えてないもん。なのに、高校生活は半分過ぎちゃって、進学するのかとか就職するのかとか決めなきゃいけない時期にさし掛かっててさ」
「うん」
「……新美くんはさ、どうするの?」
「進学かな。特にやりたいことが決まってるわけでもないんだけど。いや、決まってないから、仕事を決めるまでの猶予がほしくて、進学かな」
「新美くんらしいね。私は新美くんに小説家になって欲しいけどな」
「そんな無茶は叶えられないね。僕のはあくまでも趣味だから。」
「趣味にしてはすごくいい出来だし、ちゃんとファンもいるのに?」
「ちょっと変なファンが一人だけな」
「変って何よ、変って」
「なんでもないよ。それより、紺野さんはどうするの?頭いいからやっぱり進学する感じ?」
「……前にうちに来てくれた時に言ったでしょ。私お見合いで結婚するって」
「……え、あれ本当だったの?」
「そりゃそんなこと冗談で言わないよ……」
「でも、だって……」
「嘘であって欲しいとは思うけどさ」
ああ、また悲しそうな微笑を顔に浮かべて、しょうがないよね、なんて言って笑って。
「ありがとね。いつも駅まで一緒に来てくれて」
「別に僕もこっち方面だし」
「でもあれでしょ、ロータリーからは少し遠回りでしょ?」
「そんな変わらないよ。じゃ、風邪ひかないようにね」
「あらやだ、イケメンが言うセリフじゃん」
「……悪かったですね。顔はイケメンじゃなくて」
「あー拗ねた!かっこいいよ、新美くんも」
いつも通りの会話。紺野さんが駅に消えていくのを見届けてから、僕は姉ちゃんの車へ向かう。二週間後に迫ったクリスマスにどこか街は浮かれているようで、なぜか腹が立ってくる。駅前の広場に飾られたイルミネーションも所詮はハゲた木を人工的に色づけさせているだけで、なんて思っていると気分も白けるのでやめることにする。
「おかえり、遅かったね」
「……ただいま」
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