第29話

「あのさ、怒ってる?」

日曜日を挟んで訪れたいつもの月曜日に紺野さんは僕の席まで謝罪をしに来た。いつも通り、眉毛をハの字にして困ったような微笑で。

「……別に、怒ってないよ。あのあと、どうなったの?」

あの日、僕は紺野さんの家から急用ができたと言い訳し、なんとか脱出した。本来なら、あんなに貫禄のあるおじいさんなら大切な孫の家に来ておきながらろくな挨拶もせず逃げ帰る男を良くは思わないのだろうが、おじいさんは「またおいで」と一言だけ言って笑いかけてくれた。それはもう後継者を選ぶタイムリミットが刻一刻と迫ってきていることを暗示しているようでもあった。

「いい人だって言ってたよ、新美くんのこと。普段おじいちゃんそんなこと言わないから新美くんはおじいちゃんに認められた数少ない人間の一人だよ」

「そう判断するほどのことは何もしてないと思うんだけど……」

「私が普段いかに新美くんがいい人か言ってるからじゃない?」

「だとしたら、かなり期待はずれだと思われてなきゃおかしいよ」

「……なんでそんなに自分を下げるかなあ……私は自分の好きなことに打ち込んでる新美くんが一番好きなのに」

「…………勘違いさせるようなことは言わないでよ」ぼそっとつぶやいた。


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