第28話

通された部屋はどちらというと洋風寄りで、シックなソファや棚に飾られたいかにも高そうなお皿が置かれていた。紺野さんがL字型ソファの一辺に座ったので僕もそれにならって違う一辺に腰を下ろした。ああ、ここも腰が悪くなるんじゃないかっていうくらいふかふかすぎる座り心地じゃん……

「では改めて、紺野家にようこそ、新美君。大方の話は百合華から聞いているが、私は君の口からも直接どうしたいか聞きたいと思っている。どうかね?」

……なんのことですか?とはさすがに聞けないけど……何言ってんの、この人っ!どうするって何を?紺野さんから何をどこまで聞いたんだ?

「まあそう焦ることはないのかもしれないが、やっぱり後継者は早くいたことに越したことはないと思ってな。私もいつころっと逝っちまうかわからんしのう……」

「……後継者?」

「やっぱり、結婚するときはある程度百合華のことをわかってる恋人の方がこれから先の会社経営も任せられるだろう?百合華はそう簡単に人と交際したりする人じゃないだろうからどうやって口説いたのか知りたいところではあるけれども……」

「……結婚?」


「……ちょっと?話が違うんですけど。なんで僕が後継者になるなんていう大層な話になってるんだよ。」

なんとかリビングで話を合わせて二人で紺野さんの部屋に逃げ込んだ。僕はベットの端に座る彼女を少しばかり責めたてる。

「それは…‥ごめんっ!だって本当のこと言ったら新美くん絶対に来てくれないだろうと思ってさ」

「そりゃもう、こんな大きな話……僕は無理だから、違うやつに頼んだほうがいい。」

「……違うやつっていうのがいないから今私すごく困って苦肉の策に出たところなのよ」

「別に今、結婚して会社引き継げって話じゃないんでしょ?だったら、おじいさんのご機嫌取りをずっとするんじゃなくて本当の恋人を作った方がいいって」

「……そんなことできたらとっくにしてる!でも、できないから……それなのに後継者を決めなければならないタイムリミットはどんどん迫ってきてるの!」

「なんでそんなに急ぐんだ。後継者にはゆっくり仕事を教えていったりするもんじゃないの?おじいさんの次が紺野さんってわけじゃないでしょう?お父さんとかはまだ元気なんじゃないの?」

「……ううん、次の後継者は私。お父さんは六年前に病気で……もういないから。副社長とかもいるけど、おじいちゃんの方針ではうちは代々血筋通りに家業が受け継がれているから、次は私で確定なの。」

「……お父さんの件はごめん……だけど、僕はああやって人を騙し続けるのには限りがあると思うよ。本当のことを言ったほうがいいよ。」

「本当のこと言ったらどうなるかわからないくせにっ……私は政略結婚に利用されるのよっ!ただ紺野家に産まれたからって好きでもない人と結婚して自分の好きなことも制限されるような人生は嫌なの……」

「……そう言えば、おじいさんは納得してくれるんじゃないのか?」

僕の言葉に紺野さんは少し悲しそうに微笑んだ。

「おじいちゃんは昔ながらに頭が固い人だから女の子が自分の好きなことをして生きるなんてことがあるなんて信じてないし……それに何より、親が亡くなってから私を育ててくれた恩もあるから、全てのわがままを押し通すわけにもいかなくて……今こうやって東京のお嬢様女子高じゃなくて男女共学の公立高校に通わせってもらってるのも私がわがまま言ったからなんだよね。みんなとおんなじように生活してみたいって。憧れがあったんだよね、熱すぎる文化祭とか。学校帰りにコンビニに寄って帰るとか。今までは私がわがままを押し通してきたようなものだけど、最後はおじいちゃんの言うことも聞いた方がいいのかな、なんて。でも、やっぱり、どうしても私は好きな人と結婚とかしたいと思うし、お見合いで私の相手になった人に対しても申し訳ないなって思うんだよね。」

「……どんな家業なの?」

「ネイビーコーポレーションだよ」

「……え」

ま、まさかの日本随一の超巨大出版社ですかっ!?

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