第27話
決戦の日。ちゃんとスマホで大人なコーディネートを検索してきたので服装は問題ないはずだ。姉さんにも最終チェックしてもらったし。あとはどうやってアホ丸出しのような顔を引き締めて賢そうに見せるかだ。
「あっ、新美くん!こっちこっち!」
紺野さんの家の最寄駅近くの広場でスマホを握りしめながら彼女のトレードマークでもあるサラサラで高いポニーテールを探している時に背後から声をかけられた。
なんだ、今日は学校じゃないから髪を下ろしているのか。気づかないわけだ、いつも以上に色気が増しているわけだから……納得納得
「……ごめん、見つけられなくて」
「全然大丈夫!でも、本当に良かったの?無茶な頼み事だなって自分でも提案してて思ったんだけど」
「まあ、大丈夫。紺野さんには文化祭の時の恩もあるし」
「あーあれ?私特に何もしたつもりないんだけどな。まあいいか、ありがたいです、本当に。前にも言った通り、最初に挨拶してちょっとランチをすればいいだけだから」
「……わかった」
「じゃあ、行こっか」
紺野さんについて行った先は黒の光沢が眩しい車。マジかよ、ベンツかよ……車に疎い僕でも知っている名高い高級車じゃないか。
「どうぞ」
ドアの前に立っていたのはまさかの執事だったらしい。きっちりとしたスーツを着こなした彼はドアを開けてくれた。
「お嬢様、このままご自宅に直行してもよろしいでしょうか」
「うん、お願い」
「かしこまりました」
思っていたより田畑が広がるような農道に懐かしさを覚えるのとは裏腹にふかふかすぎるシートにあんまり揺れず乗り心地が最高な運転、そして何より紺野さんの割と真隣に座っているという非日常的すぎる体験の連発で家に着く前に疲れた……紺野さんってこんなにすごいお嬢様だったのか……
近くの空き地には黒のワンボックスカーが停まっている。なに、ここも紺野家の敷地なわけですかっ?
十分ほど車に揺られたあと、光り輝くベンツはある家の前で停まった。最高の乗り心地のベンツと執事がいることを考慮する限り、荘厳な西洋風のお城のような家にでも住んでいるのかと思っていたが、見えるのは田畑と山と古き良き日本の和風建築の家が一軒だけだった。もっとも、僕が暮らしているオンボロアパートなんかよりは随分広いのが見てとれるが、少しばかり意外だった。
「着いたよ、どうぞ」
紺野さんは執事さんにの手を借りて車を降り、今度は僕に白い執事さんの手が向けられた。
「どうぞ」
「……どうも、ありがとうございます……」
大きな黒い門を通った先には季節の花や木が庭を彩っていた。どれも和風な家の雰囲気を崩さないようにしながら、自分の存在を大いに伝えてくれる。奥には誰かが趣味としているのだろうか、大小さまざまな盆栽が置かれていた。
「君が新美君かね?」
「ヒイッ」
急に後ろから声をかけられ、振り返れば杖を持った白髪のおじいさんが……ではなく、電動車椅子に乗ってはいるものの肌艶も良く、髪質も綺麗なおじさん、いや、ジェントルマンがいた。
「そうですが……」
「良くきてくれたな。よし、うちに入れなさい」
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