第26話

季節は過ぎた。頭もいい紺野さんが定期考査で唯一僕に勝てない教科である国語で勝負をしようと持ちかけて結局僕が大差をつけて勝ったり、図書当番の後に一緒に近くのコンビニで肉まんを買って食べたり……文化祭以来仲良くなった間宮さんも含め三人でつるむことも多くなっていた。そんな中で事件は起きた。


「あのさ、うち来てくれない?」

学校に登校してきたばかりの僕に唐突に話しかけてきた紺野さんは切羽詰まっているようだった。

「……どうなってそういう話になるんだ?」

「うーん、ああ!小説の書き方を教えて欲しいんだよね」

「今思いついたかのような顔してたけど、」

「これはずっと前から思ってたことなの!教えて欲しいなって、先生に。」

「先生って言って僕の機嫌を良くしたいって魂胆なのかもしれないけど、して欲しいことあるなら直接言ってくれなきゃわからないよ?」

僕の言葉にぐぬぬと渋い顔をした後、躊躇いがちに口を開いた。

「会ってほしくて……私のおじいちゃんに」

「あーそういう……え?おじいちゃん!?」

おじいちゃんに会うってなんだよ。まさか、有名な小説家だったりするのか……?

「私今まで友達とかちゃんといたことなかったからさ、口滑らせて新美くんとか間宮さんの話をしちゃったのね?そうしたら会わせてくれってうるさくて……今度一回連れてくるって言っちゃったらすごく喜んじゃって、訂正できなくてさ……」

「……ちょっ、ちょっと待って。今まで友達いないってそれは嘘でしょ?」

「それは……別に嘘でもなんでもないけど。学校帰りに肉まん食べたりとかゲームセンター寄ったりとかなかったからさ」

言葉をなんとか紡ぐ彼女とは裏腹に僕はまったくもって動揺を隠しきれなかった。

「ほんと、今回だけでいいから……顔だけ出してくれない?顔だけ見せたら、用事あるって言って帰ってもらってもいいし。もちろん、タダとは言わない。例えば……おじいちゃんのツテで新美くんの文学作品を出版社に送るとか……?どう、やってくれる?」

いやいや……かなりオイシイ話ではありますけれども……圧倒的に僕には紺野さんに釣り合う華も知能も容姿もないんだが……。だが、こうやって紺野さんが頼んでくれることも多くないから、聞いてあげたい気持ちも正直あるんだよな……でもなあ……

「まあ、無理にとは、言わないけど……考えてくれないかな……?」


少しばかり申し訳なそうに眉をひそめて口をすぼめる姿に僕はやはり勝てなかった。僕はもうどっぷり紺野さんの沼にハマっていることだろう。

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