第23話

「いらっしゃいませー!カラフルなわたあめやグミいかがですかー?」

よく通る声が廊下に響いていく。映えを意識した風船や連続三角旗が至る所に飾られた教室には今年から解禁されたスマホを手に続々とお客さんが舞い込んできた。僕はフォトスポットで写真を撮るのを手伝ったり、写真を撮る際に用いるカチューシャや帽子、花飾り、笑いを取るようなマスクなどの諸々の小道具の設置の仕事を任された。幸か不幸か、紺野さんとは同じバイト時間で嫌でも彼女の接客の様子が窺える。九時スタートの祭りに合わせたバイト時間は十一時半まで。そのあとは特に一緒に行動する人もいないのでどうするのかを考えておかねばならない。去年ならば人手が足りなかったバイトのために一日ずっと出勤していたが、今年はどうもそうすることもなさそうだ。


「おねえさん、メイド服めっちゃくちゃ似合ってるよねえ!いつバイト終わんの?一緒にまわらない?」

いわゆるナンパのような語り口で親しげに話そうとしてくる男どもの声が聞こえる。金髪でいかにも調子にのっているような彼らは近くの商業高校のやつらだろうか。金髪とピアスだなと勝手にあだ名をつけて呼ぶことにした。様子を盗みみれば、目線は紺野さんのほっそりと伸びた足や綺麗な顔に向かっている。

「ねえ、どうなの?なんなら、今連絡先でも交換しとくー?」

「ちょっ、お前、それは早すぎるだろ!怖がっちゃうだろ!」

ガハハとでもいうような下品な笑い声が響いた。

「……お誘いですか?ありがとうございます。ですが、当店はお客様との個人的なやり取りは控えさせていただいておりますので、そこはご了承いただければと思います。」

「だーってよ。なんか妙に設定が細けえ店だな。」

「じゃあ、バイトが終わったら、また来るから、その時はきっちり一般人として連絡先くれよな」

「……」

「お前、何黙ってんの?あーあ、看板娘の接客だともっと金がかかるっていうのに全然楽しくないじゃん」

「あっ、見てみろ。チェキも撮れるんだってよ。看板娘というよりかアイドルっぽいな。ま、どっちでもいいけど。俺撮るけどお前、撮る?」金髪男がピアスに問いかけた。

「何言ってんだよ。撮るに決まってんだろ。このためにわざわざ金をかけたと言っても過言ではないからな。」

写真?そんなものは一回も聞いてないけど……。紺野さんも動揺しているようで、お皿を片付けると言って席を外した。だが、戻ってきた彼女は何事もなかったようにお客の言う通り営業スマイルで写真を撮ると、次の自分目当ての客の接客に行った。

「すみませーん、写真撮ってもらってもいいですかー?」

別の女子二人組が自分を呼んでいるのだと気づくのに少しばかり時間がかかった。やばいやばい、僕も自分のことに集中しなければ……

「あっ、すみません、わかりました。このスマホで写真ですね……」


……何かがおかしい。ただ、それは本能的に感じるもので何が原因なのかは分からなかった。

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