第22話
……あれ。僕、耳悪くなったかな。思ってた答えと違うんだけど……
「…………え」
「だから、私やっぱり着ることにする」
「……なんで」
「私の、ため。」
そしてもう何も言うことはないと言わんばかりにくるっと僕に背を向けるとキッチンへと向かった。近くにいた笹村さんも満足そうに彼女の後を追いかける。今度は間宮さんと僕だけがその場に取り残されたまま、呆然と立っているしかなかった。
あんなことがあった後も、文化祭の準備は着々と進められていく。スタンドや看板も綺麗に絵の具で塗られ、提供する食べ物も決まった。カフェバイトの時間割りもみんな平等に決まった。本当に平等に、だ。僕や間宮さんみたいな人の分が増やされることもなく、押し付けられることもなく。これも約束事のうちの一つなのだろうか。だが、そんなことを確認する暇もないほど僕も紺野さんも忙しかったわけで準備最終日まで話せる機会がなかった。
大方の準備が終わり、あとは食べ物の仕込みを始めようかとしていた頃。
「はーい!みんなー、一旦手止めてねー!」
コホンと咳払いをした笹村さんは手を叩いてみんなの注目を集めた。
「えーっと、今日まで大きな事故とか怪我とかなく、無事明日カフェを開店できそうでーす!ありがとうございまーす!いえーい」
わっしょーい、と太田くんあたりが盛り上げ、盛大な拍手が巻き起こった。
「おー、ありがとう、ありがとう。……本当にみんなのおかげです。あとはクラス優勝を目指すだけ!でも、今回は結構楽勝だと思うんだよねえ、だって、うちの看板娘は過去最高の仕上がりだからさ」
笹村さんの合図で紺野さんがメイド服姿で前に出てきた。いつも通りの彼女の姿すぎて、何を考えている顔なのかさっぱりわからない。……本当にこれでよかったのだろうか……。
「おーっと、みんな集まってるようだな。文化祭は明日だけど、どうだ?ちゃんとまわりそうか?見た感じかなりいい感じの映え喫茶だな」
教室後方から畑山先生が集まりに混ざってきた。
「喫茶店じゃなくて、カフェですけどね」
「喫茶店もカフェも一緒だろー?どうだ、念願のクラス優勝できそうか?」
「全然違いますよー。まあでも、クラス優勝はできると思いますよ。なんていったってうちには看板娘がいますからね」
「看板娘?誰だ、それは。太田か?」
畑山先生が茶化すように言った。
「太田くんじゃなくて、百合華です。ほら、このメイド服かわいいですよね?」
「……ああ。悪くないと思うが、あんまり肌の露出とかは控えた方がいいと思うぞ……」
思った以上の服装だったのか、畑山先生は若干引いていたが、紺野さんからの視線をすぐに外すと、笹村さんに続けた。
「まあ、ちゃんとできているのならよかった。みんな、明日は精一杯楽しもうな!そして、目指せ!クラス優勝だ!」
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