第21話

「どう?新美くん?彼女、可愛いでしょ?こーんな露出しちゃって、他の男の子誘惑しちゃうんじゃない?心配だよねえ」

笹村さんが紺野さんの腕を引っ張って僕と対峙させた。目を伏せた紺野さんの顔からはどういう表情をしているのかはわからない。でも、微かに手が震えているのは幻覚ではなさそうだ。

「彼女じゃないしっ……紺野さん、嫌がってると思うよ」

「紺野サンのためにわざわざ作ったんだからさ、文句言わずに着てよね。あなたはそこにいるだけでお金になるんだから。」

本来ならばここで主人公が一発殴るなんていう展開が好まれるのだろうが、生憎僕にはそんな勇気はなかった。でも……

「でも、紺野さんが着たいって言ったわけではないでしょう?」

「言ったよ。」

ずっと下を向いていた紺野さんは僕の目を見つめてそう凛と言い放った。

「私が、言ったの。普段あんまりこういう服着ないけど、たまにはいいかなって。」

「ねー?あたしが言った通りでしょ?自分の彼女のこんな姿を他のやつに見せたくないんならあんたのその顔面もあたしが作り直してあげようかー?」

「…………結構、です」

「そう?後で後悔しても知らないよー?」

僕が世界で一番嫌いな笑顔を見せた笹村さんは紺野さんを置いたままキッチンへ戻っていった。


「……本当は着たいって言ってない、よね?」

「言ったって」

「紺野さんは嘘をつくとき、僕の目を見ない」

はっとした様子で彼女の瞳は僕を捉えた。

「っていうのは、今気がついたことなんだけど。今まで嘘をつかれたことなんてないから。」

「……嘘じゃない」

また、下を向いた。話すたび、声の震えがひどくなっていることに気がつかないのだろうか。

「なんで言わないんですかっ……紺野さんがメイド服を着たのは笹村さんに脅されたからって」

いつの間にか僕の隣に来ていた間宮さんの言葉は聞き捨てならないものだった。……脅されたって、どういうことだ。

「……何それ。どういうこと、脅されたって」

「何でもないよ。間宮ちゃん、私は脅されてなんかないって」

「何でもないわけないですっ。私昨日聞いてしまったんです。紺野さんが笹村さんに詰め寄られて、新美の秘密をバラして欲しくないのならメイド服を着て看板娘として客から金をぶんどれって……」

紺野さんはさらに居心地が悪くなったように項垂れた。

しかし、紺野さんが守りたかったものが、僕の秘密……?秘密って何のことだ……?

僕の思考を読んだかのように紺野さんは口を開いた。

「……秘密っていうのは吉南のこと。何で笹村さんがそれを知っているのかはわからないけれど……、私を看板娘にしてお金儲けしようっていう話は前から出てたみたい。」

「……僕の秘密がみんなに知られたところで地味なやつが地味な趣味を持ってるってだけのことで、別に隠すほどじゃなかったのに……」

「だって、私が知った時は結構狼狽してたから……」

「……あれから紺野さんに言われて変わったんだよ。今までは小説を書くのなんて恥ずかしいと思ってたけど、あんな風に一人の読者から面白いって直接言ってもらえることなんてなかったから、……だから紺野さんが我慢してまでそんな服装を着る必要はないんだよ」

僕の言葉に紺野さんは呆然としているようだった。

「……私はこれ着る必要ない……」

「そう」

「……わかった。」

彼女は僕の目をしっかり見つめて言葉を紡いだ。

「私着るわ」

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