第20話

「……これ、昨日買ってきた砂糖です。」

「……あー、どうも。お釣りだけその机に置いといて」

笹村さんは相変わらず冷たいが、昨日の一件があってから直接嫌味を言うようなことはなくなった。紺野さんのおかげだろうが、まだ彼女にはお礼を伝えきれていない。昨日間宮さんと別れたことも相まって気まずい。非常に気まずい。

「あっ」

間宮さんの姿を捉え、声をかけようと思ったものの、何を言えばいいのだろうか。だが、通りがかった間宮さんは僕の蚊の鳴くような声をも聞き取ったらしく、

「……?今、なんか言った?」

「……あ、いや、なんでも、ない。……なんか大変そうだね、キッチン。うまくいってないの?」

絶対そんなことを聞きたかったわけじゃない。

「うーん、なんかわたあめの色があんまりうまく出なくて。そこまで味はこだわらずに映えを意識したものだからこそ、見た目には気をつかいたいんですけど。」

「そっか、映えって難しそうだね」

「そうなんです、私にはよくわからないから……全然戦力になれなくて。作って、って言われたらその通り作るんですけど……」

「それは僕もそうだよ。作って、って言われただけのフォトスポットとスタンドの台を永遠に作ってるだけだから。まあ、他の人も僕にできることはこれだけってわかってるんだろうね。でも、間宮さんはまだキッチンで紺野さんとか笹村さんとかと一緒にできているからある程度は期待されているんじゃないのかな?」

「……そうなんですかね……ありがとう。あ、昨日はどうでしたか?」

「昨日?」

「ほら、紺野さんと二人でスーパー行ったんですよね?何か進展とか?」

「……進展?」

「え、あれ、お二人って交際しているのかと。もしくは、交際する直前のあのくすぐったい時期なのかと思ってたんですけど、違いました?」

……え?僕ってそんなにわかりやすい顔をしていたか?いや、でも、あの人に僕は釣り合わなさすぎるだろ。というか、そう思って昨日は早く帰ったのか……?僕が悩んだ時間はなんだったんだよっ……

「違う、違うよ。どこからそういう話になるの?」

「まあ、なんでもいいですけど、行動をするなら早くした方がいいと思いますよ。」

「……行動?」

「……さっきから私のおうむ返しやめてくれません?というか知らないんですか。紺野さん、二年一組の看板娘としてうちの映えカフェを宣伝してくれることを約束する代わりに笹村さんに新美くんに嫌味を言うなって言ってて……」

「でもっ……紺野さんは、自分の容姿を売りにするようなことは、しなさそうだけど、」


「あーっ、紺野さん、似合う!やっぱり違うね、美人はいいよね、何着ても似合うもんね」

きゃーっとキッチンでする甲高い話し声の真ん中で紺野さんがいかにもメイド喫茶のような格好をして立っていた。かなりスカートも短いし、ふりふりもそこら中に散りばめられていて、直視できなかった。紺野さんが一番嫌がりそうな格好じゃないか、これって……。それでも、モデル体型のような彼女のすらっと伸びる白い手足に合っているようにも、見えた。まるで人形だ。

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