第18話

「よかったー!砂糖買えたー!」

「うん、よかったね、」

「……何そのはしゃぐ子供を殺すくらいの勢いの冷たい眼差し」

「そんな目してないよ」

結果、駅の近くのスーパーで砂糖があったため、大きな袋で購入し、僕が家に持って帰って明日学校まで持ってくることになった。


「ねえ、あの時、なんで断らなかったの?」

「あの時って、いつ、?」

「笹村さんが買い出し行けみたいな圧力かけた時」

「いや、あの状況断れないでしょ」

「違うじゃん。新美くん、右足に負荷かけないようにいつも歩いてるでしょ。体育も基本見学だし、足に病気とか、、あるの?なんてね、ごめん、言いたくないよね、ごめんっ。今の無かったことにしてもらっていいから」

「……えっ」

正直気付かれているなんて思わなかった。だいぶ前の傷だから、もう歩くのにも慣れてより自然に歩けるようになってきたと結構自信を持っていたのに。

「……事故」

「……え?」

「交通事故。僕が五歳の時、プールの帰り道で昼からお酒飲んで酔っ払って運転していたおじさんが車に突っ込んで……僕は足を挟まれただけだったから、よかったけど……」

「……うん」

「……母さんが……体ごと弾き飛ばされたから……助からなくて、頑張って、ハンドル、きってたらしいんだけど。ごめん、こんな重い話聞きたくないよね。そう……それでそれから僕足を手術して……当分は車椅子生活だったんだけどリハビリして、十歳くらいから普通に歩けるようになったんだよね」

「……ごめん、本当に。ごめん」

「いいよ、全然。むしろ気付かれてないと思ってたから……いかにも普通に歩いてますよーって顔して歩いてたの、なんか恥ずかしいじゃん。それに、こういう秘密を共有することってないから、なんか、ちょっとスッキリしたよ」

「恥ずかしい、なんて、絶対思わないよ。さっき間宮ちゃんはかっこいいって言ったけど、新美くんも十分かっこいいよ。」

「……なんか、そうやって褒められることないから……変な気分だよ」

「でもさ、まだ多少は負荷かかるのに、重い荷物とか持っちゃダメだよ。今日買った砂糖も私持って帰るし、笹村さんだってわざとあんなこと言ってる意地悪な人だから、ちゃんと断らないと。」

「……え。ちょっと待って。笹村さんも僕の足がちょっと変だなって気がついてるみたいじゃん。」

「えっ」

「え?」

「……いや、多分、みんな足のことは気づいていると思う、よ?私でも気づいたから。」

なんだ。僕はみんなに秘密にしていることがある気持ちでいたけど、みんなその実気づいていたのか。そっか……僕なんかよりもみんなの方が気を遣ってるじゃないか。……笹村さんは別としても。


「……新美くん?」

「えっ……あー、大丈夫、僕駅からはいつも車でお迎えに来てもらうんだ。だから砂糖のことは足に負担なく持って帰れるから。」

「本当に?私だって全然大丈夫だし、なんなら今日新美くんが砂糖を買わなくちゃいけない状況になったのも私のせいというか……」

「結局紺野さんも気を遣ってるじゃん。僕はみんなにそうやって気を遣われるのが嫌だったから足のことは言わなかった。大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。本当は女の子を家まで連れて行ってあげるのが男らしい行動なのかもしれないけど、僕にはそんな余裕のあることなんてできないから、気をつけて帰ってね」

「……うん。新美くんもね。また、明日ね」

「うん」

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