第17話
「私、行くよ」
思いがけない方からの声が聞こえて思わず振り返った。紺野さんがエプロンを外しながら、そう言った。
「えっ」
「キッチンにたくさん人がいてもできることって限られてるし、私まだ今年買い出し行ってないからさ、」
「そ、そう?それなら、お願い」
明らかに買い出しをお願いしたい人とは別の人がしゃしゃり出てきて動揺を隠せない様子の笹村さんが紺野さんを睨みつけるも、特になすすべもなくキッチンに帰っていった。
「……ありがたいけどさ、あんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、あれ新美くんの前で言ったのって絶対わざとじゃん。ああいうのなんか許せないからさー、私の自己満足でやったって思って貰えばいいよ」
「……ありがと」
「……じゃ、私間宮さんと行ってくるね」
「……え」
「何その反応」
「この空間に取り残されるの、気まずいんですけど」
「ま、なんとかなるよ」
「……え?そっちの自己満足行動の結果じゃないですか……」
「責任取れって?私一応その自己満足行動で人を助けたと思うんですけど……意義有ります?」
「だから……ありがたいんだけど……でも、」
「そんなに取り残されたくないなら一緒に来る?」
「それはまた違くない……?」
「来るの?来ないの?どっち?」
こうして今僕は紺野さんと間宮さんと三人で校門前で最寄りのスーパーを地図アプリで探している。今から行って買って帰ってきても下校時刻に間に合わないからそのまま帰っていいよ、という帰れ宣言をされたので通学カバンは持ったまま。
「こっちじゃない?」
「え……これこっちが北だよね?新美くんってば方向音痴?」
「こっちSついてますけど」
「……それならそうと早く言ってよーもう」
「随分前から言ってるよ……」
「どう?間宮ちゃん、こっちのスーパーでいい?」
間宮さんはずっと下を向いたまま、黙って僕たちの会話を聞いている。いや、聞いているのかもちょっと怪しい。
「……ます」
「……え?」
「……帰ります。すみません、今日、母に早く帰ってくるように言われてたの思い出して……ごめんなさいっ」
間宮さんはバッと深くお辞儀したと思うと、スタスタとスーパーとは逆方向に歩いていった。トレードマークの下の方で結んだポニーテールは寂しそうに揺れていた。
「間宮さん……?追いかけなくていいの?」
「多分気を遣わせちゃうって思ったんじゃないかな?彼女なりの優しさだよ。受け取ってあげよ?」
「僕のせいだよね……?」
「うーん、ある意味そうかもしれない。でも」
紺野さんは僕の目をまっすぐ見つめて言った。
「でも、新美くんが責任を感じることはない。もちろん、間宮ちゃんも悪くない。二人とも人に優しい。優しすぎるくらい。間宮ちゃんは新美くんとはそこまでまだ濃い人間関係を作れてないから、気を遣ってる。新美くんは教室にいる時私が口を挟まなかったら、笹村さんに従ってたでしょ?」
優しすぎる、なんて初めてだった。気を遣うなよ、ということは嫌というほど聞いたことのあるフレーズだったが、気を遣わないと僕が困るんだよっ、とも言えず曖昧に微笑む僕の姿が思い出される。
「それを弱いと評価する人はいるかもしれないけど弱くいることは本当は人間関係で大切なことだったりする。今日、三人のままだったら、多分間宮ちゃんも新美くんもお互いに気を遣うでしょ?気を遣うのって疲れるからやめてほしかった。だからあの判断をした間宮ちゃんはすごいよ。大人だよ。かっこいい。」
好きな人の前ではかっこよくありたいものだ。
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