第16話

「すみませーん!誰か砂糖買ってきてくれる人いるー?」


まだ暑さが残る九月中頃。一週間ほど前から文化祭の準備が始まった。文化祭準備期間として設けられたこの時間は部活の時間も短縮され、それぞれが各々のクラスの文化祭の手伝いをする。二年一組は、笹村さんの意向で映えを活かしたフォトスポットと派手な色を用いたわたあめやグミ、飲み物を提供することとなった。普段の僕の生活には全く関わりのない色鮮やかな食べ物に囲まれた女子たちはせっせと食べ物作りに没頭している。僕はというと、特にすることもないので、男子はこれね、と任されたフォトスポットと食べ物を提供するスタンドの土台作りをしていた。木の棒を切っては色をつけ、ネジで固定する。その繰り返し。

「あ……新美?ちょっとこれ変わってくんね?ちょっと抜けるから。すぐ、すぐ、戻るからさ」

「うん。いいよ」

ネジ打ちをしていた男子がこうやってサボるために話しかけてくる以外はいつものようにただ黙々とこなされた任務をするだけだ。

「新美くんさー、さっき笹村さんに木の色付け頼まれてたじゃん。あれも絶対大変なんだから、たまには断りなよ。サボるのを手伝ってくれる都合のいい人になっちゃうよ?」

「、、僕はいつもその立ち位置で満足してるよ?」

よく分からない、というように紺野さんはため息をついた。作業用のエプロンは彼女によく似合っている。

「というか、紺野さんも笹村さんに言われて食べ物研究してるんでしょ」

「それはっ……まあ、確かにそうだけど……」

「都合のいい人になっちゃうよ?」

「もうすでに都合のいい人になっちゃってる人に言われたくないですー」

「だからもう僕は満足してるって……そういえば、間宮さん、紺野さんに用があるんじゃない?」

「えっ?」

「あっ、いや、なんかごめんね、このシロップ作ったんだけどさ、味どう?甘すぎないかな?」

「どれどれー……うん!いいんじゃないかな?」

立ち去り際にごめんね、と少し申し訳なさそうに振り返った後、普段のクラスでの紺野百合華に戻ってキッチンへ帰っていった。本当は紺野さんもわかってるに違いない。間宮さんは笹村さん達と一緒にいるのが怖くて、同じくクラスでいじめられない程度の一人で行動している紺野さんと仲良くしようとしていること。そして、学校という場で少しでも生きやすくするためには共通の「一人」仲間を作っておくことが一番手っ取り早い方法であること。特に女子なら尚更。

黙々と色付けをしていると、笹村さんが僕の前に来た。

「すみませーん!誰か砂糖買ってきてくれる人いるー?」

……まじですか。

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