第14話
紺野さんは僕が少しピリッとした様子を見て、勘づいた。
「失礼しまーすっと、お、紺野と新美じゃないか。まあ、いるのは当たり前か。それよか、すごい埃臭くないか?」
ゲホゲホ、と咳き込みながらやってきたのは畑山先生。暇なんですか、と突っ込みたくなるが、それ以上にどうしてここにいるのかが謎すぎる。ぽかーんとした顔の図書委員を見て先生は笑った。
「二人がちゃんと仕事をしているかが気になってな。まあ真面目そうな二人だからやってくれてるとは思っていたが、そうか、誰もいないのか、じゃあちょっとお邪魔しようかな」
先生は近くにあった埃を被った椅子を持ってきてドカンと座ると日本文学の棚をあさくりはじめた。
おお、結構いい教授とかが書いた本あるじゃないか。とか、今度これ授業で使おうかな、とか。言いながら本を物色する先生を見て、ああ、そういえば、図書室ってこういう場所だったなと思い出す。人と本がつながる場所。
僕が先生をぼーっと観察している間、紺野さんは先生を見習っていたようで、机に積み重なっていた、シャーロックホームズの本を漁っていた。
「ほら、新美も好きな本を取ってきて読んでみたら面白いんじゃないのか。」
僕は席を立ち、去年まで図書委員の時に使っていた椅子のところへ向かう。人が来ないことを分かりきっていて、図書室の一番奥で本を読んでいた時代。そこは前に来た時のまま、他の椅子に比べ、埃があんまり溜まっていなくて。近くに立てかけられていたゲーム開発をする少年たちの本を手に取る。ああ、そういえば、前はこれを読んでいたんだった。
元々ゲームを趣味にしていた少し地味な男の子がひょんなことからクラスの人気者の男の子とゲームを作り始めて会社を設立するまでに至る壮大な物語だ。二人の間に交わされる会話のテンポの良さと少年の心の中のツッコミが面白くて、何回も読み返したものだ。
「何、それ?どういう話?」
「うわあああああっ」
「え、あれ、驚かせちゃった?」
「……急に、そういうこと、やらないで……心臓に悪いから……」
「ふふ、ごめんごめん。それで、どういう話なの?」
僕がひとしきり説明すると、紺野さんは目を輝かせた。
「え!すごくおもしろそうじゃん!ねえ、それ借りてもいい?」
思った以上の食いつきっぷりで驚いたものの、「いいよ」と言った。
貸出の手続きの仕方を説明すると、紺野さんは夢中で読み始めた。そんな様子を見て先生も不思議に思ったのか、
「どうしたんだ、紺野ってゲーム好きだったか?」
「好きですよ」
「何が好きなんだ?」
「うーん、RPGとかサバイバルゲームも好きですよ」
「おお?てっきり動物の村とかそういう系のゲームが好きなんだと思っていたが、そうでもないのか」
「偏見ですね」
「……なんか、本に夢中すぎて俺の話を全然聞いてくれないんだけど、新美い、助けてくれええ」
「……ええ、じゃ、じゃあ、先生は何がお好きなんですか?」
「俺?俺かあ、マリオパーティーとかはみんなで楽しめるからかなり好きだぞ」
「……ぽいですね」
「そうか……?まあいいや、ちゃんと二人が仕事をしていることを確認できたから。何でも、最近の図書室は荒れてるからちゃんと仕事をしに来る人がかなり少ないとかで、担任がきちんと見張れって言うんだぞ。恐ろしいよな、図書部の先生とかいるはずなのに。俺は部活を見にいかなければならないから行くけど、二人ならちゃんとやってくれるよな?頼んだぞ」
「ええ、もちろん、ちゃんとやります。先生が気にすることは何もないですよー。だって新美くんは図書委員のエースだもん。」
紺野さんがやっと読書を中断して畑山先生の方を向いた。
「そうか、じゃあ、頼んだぞ」
そう言い残して、先生は階段を軋ませながら下の階へと降りていった。
さて、これからどうしたもんかな……
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