第13話

六限目までの授業が終わった。

「はい、号令」

「ありがとうございましたー」

自分のクラスだけ異様に長いホームルームが終わり、そそくさと図書館に向かおうとする僕に紺野さんが話しかけてきた。

「新美くん、今日図書当番うちらのクラスだよね?一緒に行こうよ」

ただでさえホームルームが長いのだから早く行きたいのだけれど、という言葉を飲み込み、「いいよ」と答える。

「本当?やったね、ありがとう。すぐ準備するから待ってて」

もうすぐ夏が来ることを予感させるような空気感に躍る六月。紺野さんと少し話す関係になってから約二ヶ月。早く図書館行きたいんだけど、なんて軽口を叩ける程度には仲も深まってて。今日は言わなかったけど。

案外一年生のクラスがまわるのが遅くて六月の第一週にやっと今年初の図書委員が回ってきた。今まで誰も来ない図書館で何してもいいという解放感を感じると共に、自分なんかいなくてもいいんじゃないか、という虚無感も感じていた去年とは違い、今年は一緒に図書委員をする仲間がいる。しかも本好きで話が合う人。

「ごめんね、待たせちゃった?」

「ううん、待ってないよ」

「新美くんって優しいよね」

「?」

「待たせた?って聞くと待ってないよって」

「……本当のことだし……みんな多分待ってないよって言うと思うよ」

「うーん、確かにみんな言いはするんだけど、新美くんは待ってないですよ感を出すのがうまいっていうか……」

「……それ褒めてる?」

「私からしたらだいぶ褒め言葉だよ」

「ちょっと感覚はわからないけど、ありがとう?」

「だから、感謝は疑問形で言うべきじゃないって」

なんて言いながら図書室へ向かう。図書室のキイと木が話しかけてくるような音に懐かしさを覚えて少し立ち止まる。

「どうしたの?」

「えっ……ああいや、何でもないよ」

「そう?」

通学カバンを司書さんの席にかけようと、いつもの席に向かうと、そこには紺野さんのカバンがかけられていた。他の女子と同じようなカバンなのに少しばかり上品さが伺えるのは、カバンに通学用の定期入れしかついていないからだろうか。

「うわー、初めて来たけど、こんなに荒れてる感じなんだね」

「初めて、ではないんじゃない?僕に嘘ついてここに呼び出したのはどこの誰だっけ?」

「えっ、あっ、そうか。ごめんごめん、そうだったね」

「そういえば、図書委員って何すればいいの?貸出と返却の時にピッとすればいいの?」

「うーん、まあ、基本的にはそうなんだけど、それ以前の問題で、人が来ないから、本当に意味ないんだよね」

「でも、図書委員は理由もなく、この本の香りを嗅げるってことね」

「……すごいポジティブだね」

「私、本とか紙の匂い好きだもん」

すると、コツコツと規則正しい足音と共にキイというドアの声が聞こえる。今まで図書委員をやっている時には聞いたことのない、人が来る音。

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