第10話
「あ、もうそんな時間か……」
紺野さんが自身の腕に嵌めた腕時計を見て驚いたように声をあげる。
「まだ春だからね、これから下校時刻もどんどん遅くなるよ」
一つの秘密を共有したことで誠に勝手ながら、少しばかり紺野さんとの距離が縮まった気がする。会話をするときもそんなに緊張しないし、紺野さんが人間味のある行動をしてくれたおかげでこれからは得体の知れない美人ではなく、本が好きな女の子として見れるだろうか。いや、あの顔の整い方ではちょっと無理があるか。
でも、嬉しかった。本当に。自分の大切な一つを他の人に認めてもらうことが。
「帰ろっか」
「そうだね」
「新美くんはさ、好きな作家さんいるの?」
「僕は結構なんでも読むからな……強いて言うなら◯◯さんかな」
「え、あの今話題の絵本作家さん?」
「え、あ、うん」
「わかるわー、あの人コミカルな絵も魅力だけどなんか人生に大切なこともちょっと教えてくれてる感じがして好きだな」
「あ、やっぱり?今度、あの人が小説出すらしいよ」
「そうなの?そりゃあ買いに行かなきゃだね。サイン会でもやってくれればいいのに」
「……◯◯さんがサイン会やったら……人生に困ってる人たちが全員相談しに来ちゃうんじゃない?」
「確かに、そうかも!新美くん、おもしろいね、さすが作家さんだ」
「ちょっと、それは恥ずかしいから言わないでって」
ああ神様今僕はとても幸せです。だから、一分一秒でも……
「あ、私こっちの路線なんだ」
「あ、そっか、僕こっちだ」
「じゃあ、またね、いや明日か」
「明日も?呼び出し?」
「いや、呼び出しはしないかも。してほしいならするけど?」
「いや、結構です……でも今日みたいな感じなら、いいかも」
「でも普通に新美くんには小説教えてほしいんだよなあ……」
「え、いや、僕なんかじゃとても、僕も教わりたいくらいだし……」
「ちょっとー?そういう時は『しょうがないなぁ、仕方ないから教えてやるよ』って男前に言うところだよ」
「変な恋愛小説の読みすぎだよ……」
「変なんて言わない!私はベタが好きなの!もう、私が帰ったらこんな話できないんだから、なんか言うことないんですかっ」
「今日はありがとう?」
「なんで疑問系なのよ、」ぶんぶん
「今日はごめんなさい」
「謝ることしたのはこっち。んで、その話はもう終わり。」ぶんぶん
「……もうわかんない」
「明日は?」
「明日?水曜日だけど……」
「もう!明日からも、一緒に帰りませんか、とかないの?」
あ……そういうこと……?
「……しょうがないなぁ仕方ないから一緒に帰りませんか」
「何それっ私の使い回しじゃん、」
彼女は初めて笑い声を上げた。
「言われたことは反省して次に生かすタイプの人だからさ、僕」
「うわあ、なんかムカつくっ」
「で、明日から、どうなんですか……?」
「……いいに決まってるじゃん?」
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