34 こうして、ぼくは転生した
「ますたーは平野明人ではなく、クラディス・ヘイ・アルジェントという名前の少年になりました。黒髪から白……いや、銀が少し入った白髪のくせっけになり、片目が黒でもう片方が紫色のオッドアイになりました。美少年です!」
「……それが。でも、名前と見た目が変わったからって……」
「転生者適性の一つに、地球での生活に強く変化を求めていたかどうかっていう項目があります」
「それって……佳奈もそう思ってたってこと……?」
「はい! 妹さんは変わりますよ。数値でいえば、ますたーよりも転生者適性が高いみたいですし。地球での最後の一日で日常が変わりそうだったのは、妹さんが何か話を切り出したからじゃないですか?」
「それは……」
的確な指摘に言葉が出ない僕を他所に、エリルは淡々と言葉を続けた。
「妹といえども一人の人間です。過剰なお節介は時として、受けて側を人形にしてしまいますから。親代理なら、そして、子どもならば。親離れと子離れをしないとですね」
「そんなのわかってるよ……」
わかりやすい図星だった。
「子どもが成人したみたいなものですから、子離れのいいタイミングだと思いますよ」
妹は僕がいないとダメ。親の代理だから。親がいないんだから。
ぼくは役目に過剰に囚われているのを自覚している。
地球で過ごした最後の日。佳奈に対して、僕が知らない間に成長をしていたんだ、と感じた。
佳奈はもう立派な一人の人間になろうとしてる。
僕が手を引っ張らないといけないという時間は終わった……のか。
「……そうか」
妹の成長を応援してやれずに、何が兄だ。
「分かっていただけましたか!」
「じゃあ、強くなってから全力で探しに行こう!」
「あーーーーーーー………はい」
それでいいのかな、とぼそりと呟いたエリルの言葉なぞ僕の耳には入らなかった。
妹が成長をするのなら、僕も成長をしよう。そういう方向で行くことにしよう。
その後、満足するまで手鏡を見たら、エリルに返して二人して大木から続いていた道を歩き出した。
「ますたー、どこに行きたいとかありますか?」
「ないよ、あるわけ。逆に目的地とかあるとおもってたんだけど……ないの?」
「いやぁ~……はは。実はこっちもますたーに会う前に色々と準備をしようとしてたんですけど……。で、でも! たまにはこうやってのんびり歩いたり、話をしたりするのも大事ですよ! 今日はそういう日にしましょう! ねっ!」
贅沢な時間の使い方。向こうの世界では絶対そんなことはしなかった。
けど、そうだな。せっかくだし。
「……たまにはいいかもね」
「はいっ! 魔物がいるかどうかは、しっかりと私が目を光らせておきますのでご安心を!」
エリルは一層表情が明るくなって僕の手を引く力が強くなり、スキップをし始めた。
握っている手が上下に揺れ、エリルの長い髪もひらひらと揺れる。そのリズムに合わせて僕の視界にチラと映る白髪の髪がすごく不思議な感じだ。
むかし、こうして田舎にある実家で佳奈とこうやって歩いたことを思い出す。
だけど、佳奈はいない。探しにも行けない。
だったら、僕は……この世界にきて何をする?
「……」
何もできなかった人生だった。
したいことも、何も成すことができなかった。
この世界では、向こうの世界でできなかったことをやろう。したいことに挑戦してみよう。
それでいつか、この世界で佳奈とまた会えるのなら、一緒に兄妹として生きれるのなら……。こんなに幸せなことなんてない。
「そーだ! ますたーのお話聞かせてくださいよ! 転生前のお話とか色々知りたいです!」
「……ちょっと重たいかもしれないけど」
「へっへーん! 重たい話でもなんでもどんな話でも私はお聞きしますよ? 時間はたくさんあるんですから、ね!」
「じゃあ、そうだね。色々聞いてもらいたい話があるんだ」
僕は転生する前の話をゆっくりと話し始めた。
話をすると、紐解くように抑えて我慢していた感情があふれ出していく。
泣きながら話す僕の話をエリルはゆっくりと頷きながら聞いてくれた。
こうして僕は、転生をした。
自分に酔えない『日常』に想い焦がれ──完。
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