27 来訪者
来客……? こんな時間に?
「はいはーい」
ドアを開くと、スーツ姿の女性が俯いて立っていた。
セールス? 佳奈の先生か? こんな先生って学校に居たっけ?
僕の身長から見えるその女性の顔はおおよそ若く見え、先生であるなら新任の先生かと思えた。
新任の先生だったら僕が知らないのもあるか。
「えぇっと……、佳奈なら今風呂ですけど」
ショートヘアーだから鼻から下は何とか見えるか?
少し覗き込もうとすると、さっきまで顔が伺えなかった女性が顔を上げ、こちらの顔をまじまじと見つめてきた。
「な、なにか……」
一々気味の悪い行動をする女性に無意識に体を引かせた。
少しの間、女性が僕のことを見つめる時間が続く。
来客かと思って対応していたけど……不気味だな。
「部屋でも間違えましたか? 忙しいので、何もないなら閉めますよ」
黒い瞳、僕より低い身長。
でも、どこか普通の人ではない気がした。
神様とかなんとかって言ってたから、そう思えるだけかもしれない……けど、不気味であることは間違いない。
返答がないから扉を閉めようとすると女性は一歩こちらに近づき、僕と目を合わせた。
「あの、いい加減にしないと……」
注意をしようとすると、満足したように女性は頷いて満面の笑みを向けてきた。
「――やっと見つけました。適性者様」
女性はそういうと人差し指で、僕の右腹部から左脇までをなぞった。
何が起きたか一瞬理解出来ず、呆気に取られているとそれはすぐに起こった。
――ぐらっ。
視界が傾き、世界が意図せず斜め上方向に移動していく。
(何が、起き……てる……?)
目線を下げると、なぞられた線上から段々と下半身と上半身がズレていくのが見え、下半身の断面が目に入ってきた。
切り離された上半身は下半身を滑り、重力に従い地面に落ちた。
下半身はバランスを失って玄関の入口に転倒し、ドンっと思い音が家中に響く。
自分の状況が理解出来ると一気に激痛が体中を駆け巡り、声にならない声を上げた。
「――っっ!!!!!!!????」
――頭の処理が追い付かない――
――腹部が熱い――
――体が寒い――
――自分の頬に温かい液体が当たる――
床と並行にある視界が自分の血液で満たされていく。
下半身との接合部分だったところから血が吹き、あっという間に体は血液不足で意識が薄くなっていく……。
「本来ならショックで気絶するはずなんですが……さすが適性者様です」
僕の血が付着している顎に手を置きながら、いまだ血が飛びだし血の海を作り上げている上半身だけの僕を褒めた。
「安心してください。後始末はちゃんとしておきますので」
僕の視線に覗きこむように身をかがめて話す。
僕が、漠然と感じていた将来の光。
それは将来から差し込む光なんかじゃなかった。
道しるべの様なモノではなかった。
まるで、手のひらの上で遊ばれているような感覚。神様の玩具として遊ばれているのかと思える。
上げて落とされる。
高く上げた方がより早く落ちていくし、落ちた時の衝撃や惨状は見る者が見れば楽しく思えるだろう。
薄れていく意識の中、微かに佳奈の声がお風呂場から聞こえてきた。
何を言っているかまでは分からない、しかし、大きな物音が聞こえて出てきたのだと思える。
佳奈……こっちに来ちゃだめだ。
――ここで完全に僕の意識は途絶えた。
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