この世界において、ちっぽけな僕たちは
28 世界樹にて、彼女は
世界のありとあらゆる情報を自動で記録する場所――『世界樹』では、新たな情報が次々に追加されて行っている。
様々な文字が浮遊移動をして中央にある
それらの文字は途切れることなどなく、全方向からうねりながら世界樹のデータの一部として保管される。
その巨大な樹は、世界に住む生命体が認識し得ない空間に置かれ、厳重に管理をされている。
それらを閲覧できる存在は、各『創造神』とそれらを統べる『全統神』。
もしくは、それらの業務の補助を担当し、世界の動向を監視する『観測者』しかできない。
そしてある日、自動記録されている世界樹に記録されたデータが一部エラーを起こしていると問題になった。
――『地球に住む者が第一創造神が創っていない存在の干渉により死亡』
――『追記:名、平野明人。日本に住む20歳の男』
――『追記:干渉した存在が第四創造神の管轄する『観測者』の可能性が浮上』
――『追記:干渉した存在は第四創造神の管轄する『観測者』であることが判明』
――『追記:地球に住んでいた第一創造神の創造物が、第四創造神が創った世界へと移動した』
――『以降、この『平野明人』という存在の情報の記載権限は第四創造神の管轄する世界樹へと移行する』
―――――――
――――
――
「むむ? ないんだけど……? あれぇ?」
その空間にぽつりと一つの影が半透明の板――『ボード』の前で格闘をしていた。
ひらひらと揺れるのは、襟元前にリボンが結ばれている膝丈の半袖ワンピース。
それに合わせて、黒く透き通るような長髪がひらひらと踊る。
その可愛らしい服装を着ている者――少女は『ボード』を色んな方向から睨むような眼差しを向けていた。
しかし、角度を変えても出てくる情報は変わらない。
「うがーぁ! どっこにも書いてない! なんで……? 私この世界のこと何も知らないのにぃ……このままじゃやばい、何か考えないと……」
慣れた手つきで『ボード』を操作するも、思った情報が全く出てこなかったらギャアと声を上げる。
静謐な空間なだけあって、それがまたよく響く。
「うげぇ……ほとんど勉強できてない……。でもそろそろいかないとだし……んぅ〜、ぁ〜」
唸りながら、再度真っ白な
「この世界の情報管理はどうなってるんですか! まったくっ!」
彼女なりの最大級の怒りを露わにしたつもりだが、ぷんすか、という言葉がどうにも似合う。
怒りのまま『ボード』を閉じると、目の前に扉を出現させた。
「でも、いかなきゃ、ですもんね。怒ってばっかりだったらだめだ。これからお世話になる『ますたー』に会いに行くのに」
少女的にも思うところは多くあるし、その表情からは少しの不安が見て取れる。
だが、人と会うためにその表情は相応しくない、と人差し指で口角をぐいぐいと押し上げた。
やや表情筋と格闘をすると満足がいったのか、扉の中へと消えていった。
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