18 大丈夫だよ、と呟いた



「ただいま……」


「っ……! にい、さん……!」


 家のドアを開けると、佳奈が玄関で顔を埋めて座っていた。涙を浮かべて、どこか顔色が悪いように思える。

 

「どこいってたの……? 朝起きたら……いなくて、電話も……」


「ごめんね、予想以上に時間がかかっちゃったんだ」


 僕の帰りを待っててくれたのかな。

 もらってきた資料を床に置こうとしたら、佳奈が飛び込んできた。

 

「わっ……佳奈……?」


「……お願いだから、突然いなくなるのはやめてよ……っ」


「ごめん。何か言ってから出た方が良かったね」


「兄さんまでいなくなったら……」


「うん……ごめん。ほんと、ごめんね」


「怖かったんだから……もう嫌なの……っ」


 涙を流して、体が震えている佳奈の頭を撫でた。

 僕側からは何のアクションも起こすことはなく、ただただ佳奈のあふれ出る感情を胸の上で受け止めて、僕はずっと謝り続けた。


 ……昨日の今日だ。それに親が急にいなくなったことを思い出させてしまったかもしれない。

 そこまで頭が回ってなかった。

 ソファまで連れていかれて怒られたり、ぽこすかと殴られたり、また泣かせてしまったり……。


(僕は、どうしようもない兄だ)


 ぼくのお腹の上で泣きじゃくってる佳奈の背中を優しく擦った。


「ごめんね」


「勉強教えてもらおうと思ってノックしてもいなかったんだもん……びっくりしたんだから」


「もう勝手に行くことはしないからさ」


「……許さないもん」


「許されないかぁ……手厳しいな」


 それでも少しは落ち着いてくれた。

 相変わらず顔を上げてくれないけど。


「それで……」


「ん?」


「それで、何をしに行ってたの……?」


「僕たちの将来の事をちょっとね」


「将来……?」


「うん。でも佳奈は何も心配しなくていいよ。僕がなんとかするから」


「何とかするって……兄さん、何を」


 佳奈が顔を上げて、こちらを見つめてくる視線を感じる。

 僕は、それを今まで見ることができなかった。

 罪悪感があったんだ。無力感で顔を直視することができなかった。


 だけど、これからは今まで見れなかった佳奈の方をやっと向くことができる。


「……僕が、あの二人の代わりに佳奈を大学まで行かせるから」



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