17 作戦会議
「居酒屋喜楽……ここだ」
僕は、家から少し離れた場所にある商店街にいた。
悠人が家に来た後、頼りにできる親族以外の人間を調べていた。
もちろんそんな人への連絡手段なんて持ってなかったので、年賀状やらなにやらを引っ張り出していった。
結局は、固定電話の横に書かれていた連絡先がズラリと紙に書かれていたところから良さそうな人をピックアップ。
すると、以前から何度か交流があった母親の知人の『中村さん』という人の存在を見つけた。その人に連絡を取り、日付を決めて時間を取ってもらった。
僕が高校になってからは数えれるほどしか会っていないが、大人の力を頼らなければ……今の状況を打開することは厳しい。
「失礼します、中村さん……いますか?」
「おぉ、久しぶりだな明人君。ちょっと痩せたか?」
「お久しぶりです。あの……そちらの方達は……?」
店内には中村さんの他に大人が三人程座っていた。見覚えのない顔だ。
「市役所の職員をしてる友人に聞いて、法や制度に詳しい人を連れてきてもらったんだ。話をしたら快く来てくれたよ」
「始めまして、平野さん。勝手ではありますが、中村さんから話を聞かせてもらいました」
「は、始めまして……」
「……明人君、よく頼ってくれた。これからの作戦会議をしよう」
店内を丸ごと貸し切りのような状態で、大人たち四人と僕とで将来に向けての話し合いが始まった。
制度や18歳の僕と、18歳未満の佳奈が受けれる制度のようなモノを詳しく教えてくれて、今いる家がどうだとか、後見人はどうであるかとかを資料を出してもらいながら話を進めていった。
親権は母親の方にあるようだが、母親の方に連絡を取ってみても連絡が付かないということだ。
最悪の場合を考えておいた方がいいって話を受けたけど……今は母親の安否よりも自分たちの生活が大事だ。
僕達を捨て置いた人の心配なんてする余裕なんてない。
医療の面で受けれるサポート等を聞いたり、金銭が支払われるという話などを中心に話していくと「親戚や叔父や叔母を頼れることはできないのか?」と聞かれた。
お金を借りている状況だし……佳奈が頑張って高校に入学できたんだ。
とりあえずは引っ越しなどはしたくないと話をした。
僕の意見も聞き入れてくれて、昼前に訪れたのだが気が付けば短針は夕方の時刻を指していた。
「これくらいか……」
「すみません、ご迷惑をかけてしまって」
「子どもに罪は無い。かと言って親のことを悪く言うつもりはない。何か理由があったのだろうからね」
「……そう、だといいですね」
色んな話をしてもらった。大人の力に頼ってよかったと思う。
だけど、僕は一番聞きたかったことをまだ聞いていない。
「それじゃあ、そろそろ私たちは……」
「――僕達兄弟は……これからどうしたらいいですか? 佳奈……妹は、高校に進学させたいんです。高校だけじゃない、大学にも、その先も。そのために僕は何をやったらいいですか。僕ができることってありますか?」
「妹さん……?」
「今、僕はただの無職の人間です。時間はあります。僕は大学を諦めました。だけど、佳奈には行ってほしい。不自由ない生活を送ってもらいたい……教えてください。残された唯一の家族なんです」
「……会社に就職するというのは」
「僕の学校は就職支援はありません。それに……下手な会社に勤めるよりバイトの方が稼ぎがいいと聞きました。保険の面での将来の不安より、今は家計の安定が重要です」
「そうなると……やはりバイトか……」
「だがやはり会社に勤めた方が後々上がっていくから――」
「この三年間のことだけでいいんです。あとのことはその時に考えます。今、佳奈の生活費と学費を払うために僕ができることを教えてください」
制度の力だけで食っていくような人間にはなりたくない。
保護を受けるというのもいいだろう。しかし生活保護は……色々制限がかかる。
それならば、僕が全力で取り組んでカバーできるんだったらそうしたいと思った。
公務員という手もあっただろうか、いや、父さんの話によると若い時の給料は低いと聞いた。危険手当がきく職種であるならその分給料も増すか? 今すぐ金が欲しい僕にとって不向きであることに違いはないか。
「それなら……時間毎にバイト代が高いところに入るのはどうだ? 昼食時や夕食時にはファミリーレストランの時給は上がるし、深夜帯や朝方でも上がるところもある」
「そういうことなら知り合いに声はかけてみるが……かなり過酷だぞ。それこそ体が壊れてしまうかもしれない」
「睡眠時間と食事する時間があれば大丈夫です。それに絶対に無茶はしません。朝から深夜まで入れるので……お願いします」
「…………なら、そうするように声をかけよう。後日、連絡をする」
「ありがとうございます」
こうしてこれからのことを決める話し合いが終わり、僕は家へと帰って行った。
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