12 卒業式前の教室で
「まだ入学金の払う猶予はある」
「今年うちからお前のとこの大学に行けたのは、例年に比べ少ないんだ。行ってもらわないと困る」
「人生を棒に振ることになるんだぞ」
どれもこれも僕の家に来た先生に言われた言葉だ。
必要な書類を持って家に押しかけては、小一時間の慰めと叱咤。
――もう、止してくれ。
どれもこれも僕の心に届くことは無い。
必死に熱弁しても、どれだけ努力を認められても、何も響かない。
なんだか、自分が空っぽになったみたいだった。
学校から逃げるように帰ったあの日。
家の扉を開けたら、佳奈がテーブルにうつ伏せになって泣いていた。
声をかけたら『母さんと父さんが離婚したって』と一言。
買い物先の母さんが働いていたスーパーで言われたらしい。
「私達っ……捨てられちゃったのかなぁっ……!」
「────…………」
母さんの職場にも既に広がっている『平野家の離婚』の話。
あの日を皮切りに、平野家の状況は一気にどん底まで落ちていったのだ。
大学の合格発表から三日が経った。
僕の学校は卒業式まで、任意での登校が課せられている。
出なくても卒業はできるが、先生から「卒業式には来い」と言われ、卒業の予行練習などには出席しようと学校に足を運んだ。
二日後に卒業式を控えているからか、合格が決まってない者以外の生徒はお祭り騒ぎだ。
受験勉強のストレスから解放され、春から新一回生になれる人達。
「…………」
既に学校も居心地のいい場所ではなかった。
ガヤガヤしている教室の中から感じる、僕への好奇、同情、憐れみ。そんな感情が混じった視線。
「平野君進学取りやめだって」
「なんで?」
「離婚したって、それと先生に殴りかかったって噂だよ」
「まじで? 何してんだよあいつ」
「声大きいって、聞こえちゃうよ」
……全部聞こえてる。
周りはさぞ面白いだろう。人の人生がある日を境に転落したんだ。こんなゴシップ。他人事だったら盛り上がる話題だ。
中には話しかけて来ようとして、結局離れていった人もいた。
教室の一番前の列の一番右の席。
よく足音が聞こえる。
茶化しているのか、馬鹿にしているのか知らないが、近くをわざと大きく足音を立てて通っていく生徒もいる。
あと二日……。あと二日我慢したら、ここからいなくなってもいいんだ。
そう言い聞かせ、周りの生徒達と極力関わらないようにしていたのだが……、
「明人おはよーさん」
「よっす」
「悠人……俊助」
いつも通りの挨拶を交わそうと、僕の机の前に立ったのは友達だった。
「? 明人元気ないな、どうした?」
「なんでもないよ」
「そうか?」
もぞっと腕の中に顔を埋め直す。
「悠人君、今は一人にさせてあげようよ」
「なんで?」
「明人君、大学行けなくなったみたいだからサ」
「は」「えっ……?」
二人は顔をこちらに向き直した。
……最悪だ。
「なんでお前らがそんなこと知ってんだ?」
「だってぇ〜、ねぇ? 噂になってるよ、明人君の親が離婚したって」
「……離婚? ホントか、明人」
「なんで、お前ンとこの両親……仲良かったじゃねぇか」
机に手を置いて話を聞いてこようとする悠人と俊助の顔を見上げることもせず、口から出てきた言葉は「知らない」だった。
「知らないってことは無いだろ、それで、大学行けなくなったっていうのは本当なのか?」
「本当デショ、火がない所に煙は立たないからね〜」
「お前らは黙ってろ。明人、お前の口から聞きたい。どうだったんだ?」
苛立ちが含む言葉で同級生達を言葉で圧を飛ばし、言葉を封じた。
そして、そのまま僕へと質問をしてくる。
……なんで、こう、上手くいかないものなのかなぁ……っ。
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