09 電話口から聞こえたのは吉報か

 


 やや時間が経つと、段々と人が目に見えて増えてきたので大学を離れることにした。

 先程張り出されたばかりだったけれど、あれでもまだ人が少なかった方だったらしい。

 バス停から新たに来たガチガチに緊張をしていた受験生と思しき人たちとすれ違うのを眼で追いながら、明人は思い出したように声を出した。

 

「そうだ。合格が決まれば高校に連絡しに行かないといけないんだ」


「あ、そっか……。このまま高校まで行くの?」


「そうしようかな、外に出たついでだから行ってくるよ。佳奈はどうする?」


「んー…………ちょっと買い物して帰るよ! まだ高校に入るのは緊張するし……ぃ」


 買い物。

 その言葉が何を意味しているのか、明人には分かっている。


「……うん、分かった。じゃあ、また家でね」


「うん! 早く帰ってきてよ!」


「分かってる分かってる」


 高校と家の方向は全くの反対方向だから、佳奈が乗るバスと明人が乗るバスは異なる。

 すぐに到着したバスに乗って、一度家に帰ろうとしていた佳奈に手を振り、次のバスの時刻を調べようとした――

 プルルルルルッ、プルルルルルッ。


「んっ……僕の?」

 

 様々な環境音が耳に入ってくる中、明人はポケットから聞こえる着信音に気がついた。

 自分に電話をかけてくるなんて誰だろうか。着信画面を見れば登録をしていない番号からだった。

 躊躇いながら電話に出ると、聞きなれた声が聞こえてきた。


『もしもし、平野か? 中島だが、今いいか?』


「あ、先生。ちょうど良かった、今こちらから電話をかけようかと思ってまして」


『そうか、それならよかった。いいか、明人。大事な話があるから今すぐ学校に来れるか?』


「えぇ、元々行く予定でした。それで、なんの話をしてくれるんですか?」


『――――――――――』


 言葉を遮るように言われた普段より真剣な口調で言われたその言葉を聞くと、周囲の環境音が無くなったと感じた。

 それほどまでに全神経が一瞬にして持っていかれたのだ。


「え」という言葉が口から出ると、一気に乾いた口が引きつった。


 明人の中で頭を整理するような間が空いて、期待や疑問がこもった声で言葉を発した。



「……母さん達の……話?」

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