第123話

三崎とアルファが召喚されたアルコーン王国 王都アルコーンから南に約400km。城塞都市エフノア。元々はアルコーン王国のほぼ中心部に位置し、交通の要衝として栄えていた都市だった。


しかし魔王軍による怒涛の進軍によりアルコーン王国が国土の約3割を失陥したことで最前線となった都市である。元々は城壁も少なく非常に開かれた都市であったものの現在は都市の周囲を物々しい城壁が取り囲み、多くの騎士・軍人が詰める人類生存圏の最前線にして文字通りの生命線のような都市だ。


一時期は苛烈だった魔王軍の攻撃も、数ヶ月前に発生した大規模な会戦以降は比較的落ち着いている。強行偵察に出した騎士等の話を総合するとどうやら魔王軍側は補給に課題が生じたらしくそれらの整備や、侵略した土地の有効活用などを進めるために一旦大規模侵攻を停止しているとのことだった。


余談ではあるがこのような膠着状態だったからこそ、アルコーン王ランパードはルネ教の力を借りて勇者召喚の儀に臨むことになった。


それはともかく、そのような比較的落ち着いていた日々の中でそれは突然発生した。城塞都市エフノアに駐留する王国軍第2軍団 軍団長 クロス・サウザンドマイルの元に急報がもたらされたのはまさに三崎とアルファがこの世界に召喚されたその日の夜だった。(三崎がストラウス卿をけちょんけちょんにするのはその翌日である)


クロスが執務室で書類仕事を片付け、さてそろそろ寝るかと思ったタイミングで副官のケヴィンが血相を変えて駆け込んできた


「軍団長!!敵襲です!!南方約30km地点に魔王軍の大規模部隊を観測しました!!」


その報告を聞いたクロスは一瞬で気分を切り替え、


「都市全体に警報を出せ。全軍第1種戦闘態勢!それから出せる部隊はエフノアから少し離れた場所に展開させろ。私もすぐに出る」


そして数カ月ぶりに人類と魔王軍の戦いがはじまったが、まさかこの規模の戦いがただの陽動のためだけに実施されたということをこの時点のクロスは知るよしも無かった。


・ ・ ・


時は戻り、アルコーン王国 王都アルコーンの王城内 修練場にて。三崎の目の前には座り込みうなだれる王国軍第6軍団 軍団長 ミーア・ストラウス。そしてその周囲には呆気に取られた表情をしているランパード王や宰相ダカンなどの政府高官達。アルファはクールな表情をしつつもやや満足げな雰囲気を漂わせていた。


そんな中で三崎は「やべぇ、やりすぎた。…というか空気がすごいことになってるんですけど」と若干焦りつつも、さてどうしたものか?と思案。とりあえず目の前の女騎士に声をかけようとしたところ修練場から少し離れた場所がやや騒がしくなり、少しすると一人の騎士がランパード王のところに息を切らせて駆けてきた。


その騎士の様子を見たランパード王や宰相ダカンは何事か?と顔を見合わせていたが、その騎士が陛下の前に跪くと


「伝令です!王都南部上空に魔王軍を発見したとの急報有り!!!約30分後に王都上空にドラゴンやワイバーンなどの混成空軍が到達する見込みとこのとです!!!!」


「な!?」


その知らせを聞いた人々が一斉に驚きの声を上げる。ダカンが血相を変えてその騎士を問い詰める。


「それは確かか!?」


「はい、複数の伝令が王城に到達しています!非常に確度が高い情報かと!さらに昨晩エフノアにて大規模会戦が発生したとの情報も届いております!こちらはエフノアは無事とのことですが、予断は許さない状況とのことです!」


アルコーン王国における最前線は王都から南方400kmほどの城塞都市エフノアであり、そこが抜かれた訳ではないらしい。ドラゴンやワイバーンなどの空中戦力は確かに極めて高い機動力と攻撃力を誇るがその能力を発揮するためには補給が欠かせない。


さらに拠点制圧のためには陸軍の侵攻が欠かせないため、これまで王都がドラゴンなどの攻撃を受けたことはなかった。攻撃しても魔王軍側にメリットがあまりなかったためである。王都にもそれなり以上の戦力が揃っており、たとえ一撃当てたとしても魔王軍側の損害も馬鹿にならず飛び地の占領も難しいためこれまで超長距離の一撃離脱戦法が試みられたことはなかった。


これらの状況を考えると、


「…エフノアへの侵攻が囮?…その隙をついて緩くなった防空警戒網を突破して王都に攻撃を仕掛けに来た。…勇者様がねらいか!?」


魔王軍側の狙いを正確に読み切った宰相ダカン。伊達に戦時国家で宰相の地位を努めている訳では無い。このダカンの呟きを聞いたランパード王は


「ダカン!早く民の避難と防衛戦の準備を!」


と慌てて指示を出そうとするが、それとほぼ同時に”カンカンカンカン!!!!”と王都中に響き渡る非常時の鐘の音。


まだ少しは時間があるんじゃなかったのか!?と嫌な汗を書きながら王やダカン達が王都南方の空を見ると遠くに小さい黒い点が複数見えた。…あれがドラゴンやワイバーンなどなのだろう。既に肉眼で見えるところまで来ているらしい。それに気づいた修練場にいた全員が”間に合わない”と絶望に叩き落されそうになったまさにその時。


「ランパード王」


修練場に力強い声が響き渡る。修練場の中央で腕を組み、仁王立ちし、力強い目線で南の空を見るその男こそ、今代の勇者。


「…三崎殿」


「やばい状況なんでしょう?力を貸しますよ。ところで王都の城壁って誰が作ったんですか?」


一刻一秒を争うこのタイミングで全く文脈が見えない質問をしてくる三崎。ドラゴンやワイバーンはどんどん迫ってきている。しかし三崎の表情は真剣そのものでふざけているようには見えない。その表情を見たランパード王は、この質問にもきっと意味があるのだと思い


「アルコーン王国初代国王ラミダスだ。建国以来1000年、増築に増築を重ねている」


その言葉を聞いた三崎はにやっと笑い、


「なるほど、それは最高だ!!!なら早速行くぜ!!!!!」


その全身から魔力が迸る。そして魔力を開放した三崎がその場で片足をついてしゃがみ、地面に手のひらを当てる。


「どうやら召喚された勇者には”勇者スキル”っていう特別なスキルが付与されるみたいでな。まぁそれのお陰で元々俺が持っていた固有魔法がなんかバグってて上手く発動できないんだけど」


と言いながらも更に魔力を高めていく。


「俺が得た勇者スキルはその対象物が象徴する力を再現・増幅する能力らしい」


そしてその力が開放され、三崎から溢れた光の奔流が地面を介して王都中に広がる。


「行くぞ!!! 勇者スキル『 故に浪漫となるヒロイックデザイア』 発動!!!!! 英雄譚模擬概念武装 万民を守る王の盾初代アルコーン王!!!!」


ドラゴンやワイバーンが無差別に王都を攻撃しようとしたまさにその瞬間。王都の城壁が輝き、王都全体が眩い守護結界によって覆われた。


そして全ての攻撃から民を守る。


「王都の城壁。それこそが英雄、初代アルコーン王が国のために残したもの。人々に希望を繋いだが故にそれは浪漫となり、万民の心にその意志が残る。その力、少し借りるぜ!!!」

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