第122話 不定期連載はじめました

「…俺の活躍を望む誰かの声が聞こえた気がする」


「は?いきなりなんですか。もういい大人なんだからいい加減そういうのやめなさいよ」


「…アルファが冷たい。せっかく久しぶりに会えたんだしさ、そこはもう少し手加減してくれよ」


「…まったく。マスターは本当にしょうがない人ですね」


時間は夜。昼間に国立高度計算機研究所(旧国立ダンジョン技術研究所)の実験施設から何の因果か”アルコーン王国”なる場所に異世界転移した三崎たちはそのまま宮殿の一室を充てがわれていた。


わけもわからずこの世界にやってきてしまった三崎とアルファだったが、ランパード・アルコーンと名乗るおっさん(自称国王)から”勇者召喚の儀”の話やこの国の情勢、三崎たちに何を期待しているのか?などの話を聞かされた。


そのまま夕食で手厚い歓待を受け、食後の団欒を経てこうしてやっとアルファと二人で落ち着いて話すことができる状況になったわけである。


「しかし真面目な話をすると、こうして異世界転移を実際に体験するとヤバいな。情報が偏りすぎてて全く判断がつかん。何か悪いことの片棒を担がされてても全くわからんわ、これは」


「確かに想定以上に困った状態ですね。我々でも途方に暮れるくらいの状況を考えると世の中の10代の異世界転移者の方々はすごいですね?」


「まぁフィクションだからな。あるいはアレが若さなのか…」


「マスターももう39歳ですもんね」


「それなぁ。勢いだけで動く年齡でもないしな」


「と言いながらいざとなったら余裕でやらかすマスターが容易に想像できます」


こんな状況でも部屋の中でのんびりと寛ぎながら適当な話を続ける三崎とアルファ。この辺りのふてぶてしさは完全に似たもの同士の二人である。


そんな雑談を続けつつも先程までアルコーン王から聞かされた諸々の話を整理していく。アルコーン王や、大司教、宰相、軍務卿、魔法卿などといった恐らく国政を担う重鎮たちが入れ替わり立ち替わり三崎とアルファに様々な説明をしてくれたお陰でなんとなくの全体像は掴めている。


彼らの話をまとめると、ここアルコーン王国はレビオ大陸の列強国の一つであり、魔王軍の侵略を受けている人類生存圏の最前線国家らしい。苛烈を極める魔王軍の侵攻の前にアルコーン王国軍は善戦虚しく後退を続けており、既に国土の約3割を失陥。


人類生存圏の他国からの支援も受けているもののそれだけでは国土を守りきれないと考えたアルコーン王が、大陸全土に広がるルネ教の大司教の協力も取り付けて執り行ったのが”勇者召喚の儀”だったらしい。そして召喚されたのが”勇者”三崎 考と、”精霊”アルファだったとのこと。


「しかし勇者と精霊ね」


三崎がなんだなかなぁと思いながら思わず呟いた言葉を聞いたアルファはぷっと吹き出し、


「マスターが勇者とか本当に似合わないですね」


といつもクールな表情を必死に保とうとしながらニヤニヤしながら三崎を弄る。


「言うなよ、俺もそう思ってるんだから。それにあっち側も隠してるつもりだろうけど、俺を見て少しがっかりした感じ出してたから俺もちょっと悪いことしたなって思ってるんだよ。俺、今回はマジで何もしてないのにな!」


今回は自分は本当に被害者なんだ!と言いながら、一方でいかにも勇者らしい勇者を期待していたらしいアルコーン王達に若干の罪悪感を感じている三崎。なお彼は忘れている。自分がこの異世界に飛ばされる直前に何の実験をしていたのかを。そしてあの実験が間違いなく”勇者召喚の儀”に何かしらの影響を与えていることを。


それはともかく。三崎とアルファはその日得た情報を擦り合わせたものの結論は「よくわからん。情報が全然足りないのでひとまず様子見」という結論で落ち着いた。その後はさっさと風呂に入って寝た二人だった。


・ ・ ・


翌日。この日も朝からダカンと名乗る宰相のおっさんやその連れの役人たちに宮殿内のあちこちの施設を案内されたり、会議室のような場所でこの世界の詳しい話を聞かされたり、逆に三崎やアルファ側からも色々と質問をしたりと忙しなく過ぎていく。


そして軽めの昼食をとった後。昼過ぎ。改めて正式な場でアルコーン王と会話してほしいとダカンに頼まれた三崎とアルファは謁見の間で王と対面していた。謁見の間には多くの貴族や軍人、魔法使いらしき人たちが並んでいた。


アルコーン王と三崎がお互いに改めて自己紹介をしたり、情報交換をしたりしており、そして王から三崎に対して「我が国を救ってほしい」という話をしはじめると


「陛下!待ってください!!!!」


と突然謁見の間にいた女騎士が声を出して王と三崎の会話を遮った。


「ストラウス卿!さすがに無礼だろう!場をわきまえよ!!!」


突然の発言に驚いたダカン宰相がその女騎士を止めようとするが、


「申し訳ない、宰相殿。しかしやはり今回の”勇者召喚の儀”、私も含めて多くの軍人が納得していない。この儀式のために貴重な魔法石もかなり消費した。それらがあれば前線では1ヶ月の物資が持つほどだ。そこの勇者殿がそれだけの投資に見合うのかどうかを確かめたいと思うのも無理が無いと思わないか?」


王国軍第6軍団 軍団長 ミーア・ストラウスの発言を聞いた謁見の間にいた多くの軍人や魔法使い、さらに貴族たちも頷いていた。


その様子を見ていたアルコーン王がものすごく言いづらそうに、


「ストラウス卿、貴殿の我が国を思う気持ちは私もわかっているつもりだ、だがこの場は…」


と続けようとしたところで


「アルコーン王、かまいませんよ」


とこれまで静かだったアルファが急に発言した。


「我がマスターの実力を知りたいのでしょう?であれば手っ取り早く模擬戦でもしましょうか?」


とにっこり笑って提案した。なお三崎はストラウス卿が割って入ったタイミングからぼーっと流れを見ており「なるほど、この人は異世界転移もので言うところの最初の噛ませ犬キャラなんだな。しかも女騎士か」とクソどうでもいいことを考えていた。


そして突然のアルファの発言である。一瞬何を言われたのか理解できなかったが慌ててアルファの方をみると、アルファがドヤ、とウインクしてきた。それを見た三崎は思った。こいつ、完全に楽しんでいやがると。


・ ・ ・


アルファの提案を受けたアルコーン王国の面々は、三崎とアルファを連れ立ちそのまま宮殿内の修練場に移っていた。


今回はあくまで模擬戦ということでお互いに練習用の木剣をもった三崎とストラウス卿が修練場で向き合う。


「勇者殿、突然すまない。あなた自身に対しては他意は無い。ただ我が国の事情で大変申し訳無いが今回の件に納得がいっていない者も多い。私自身も納得していない。だから見せてほしいのだ、貴殿の力を」


「まぁ、大変な状況だというのは概ね理解しているつもりだ。そちらの気の済むまで付き合おう」


と表面的には大人な回答をした三崎だったが内心では「勝手に呼ばれて、そしてその上実力を測るために問答無用で戦わされるとか中々にアレだな」と結構イラッとしていた。


そして模擬戦がスタートした。その瞬間、一瞬で距離を詰めたストラウス卿が全力で木剣を三崎に叩きつけようとするが、三崎はそれを木剣で綺麗に受け流す。ストラウス卿は流された剣をそのまま手首を返して横薙ぎに払ってくるが、それも三崎は軽くいなす。


そのまま数分、ストラウス卿の怒涛の連撃をひたすら絶妙な力加減でいなし、躱し、受け流す三崎。そしてついに連撃がとまり、ぜーはーと荒い息をつきながら肩を上下させて呼吸を整えようとしているストラウス卿は驚愕の表情をしていた。


三崎とストラウス卿の戦いを見守っていた周囲の人々もあまりにも一方的な展開に唖然としていた。王国軍第6軍団 軍団長 ミーア・ストラウスは、今回の陛下への進言についてはそのやり方は良くなかったものの、その確かな実力と揺るぎない国家への忠誠心で知られている人物である。


そんな実力派の女騎士の攻撃が模擬戦とはいえ一切当たらない。そんな事があるのだろうか?文献の中でしか見たことがなかった眉唾ものだった”勇者”というものに対する認識が急速に改められていく。


そしてついに三崎から仕掛ける。


「ストラウス卿と言ったな?今度はこちらからいくぜ?」


まるで最初にストラウス卿から三崎に仕掛けたことの当てつけかのように、三崎は肩で息をするストラウス卿の元へ一気に踏み込むと木剣を叩きつける。それをなんとか受けたストラウス卿だったが、三崎はその後も容赦なく連撃を叩きつけていく。


そしてだんだんと攻撃を受けきれず、ボロボロになっていく女騎士。いよいよとどめか?と思われたまさにその瞬間、三崎は急に動きを止め、ハッと鼻で笑った後、


「なんだ?そんなもんか?ほら、隙をやるから打ち込んでこいよ?」


と右手でもった木剣を肩にかけ、そして左手でちょいちょいとかかってこいとジェスチャーをする。一瞬何を言われたのか理解できなかったストラウス卿だったが、一気に顔を真赤にすると


「ふざけるな!!!」


と三崎に切りかかった。なお三崎はこの時のことを後に非常に反省することになる。ちょっとイラッとしていたために少し意趣返ししたくらいのつもりだったのだが、それで済まないのが三崎クオリティ。


・ ・ ・


そしてそのようなやり取りを繰り返すこと数度。全くと言っていいほど全力の攻撃が通じなかったストラウス卿は三崎の目の前にへたり込み、女の子座りをしながら絶望と反抗心が入り混じった表情で呟いた。


「この大衆の前でこのざまか…。くっ、殺せ」


いや殺せるわけ無いだろと三崎は心の中でツッコミ、修練場で一連の様子を見守っていたアルファは「…これが伝説のクッコロ!!!!」と無表情に感動していた。


・ ・ ・


【作者あとがき】

ここから、始めましょう。 一から……いいえ ゼロから!


ご無沙汰しております。けーぷです。気まぐれに書いた前話で沢山のコメントいただき驚きました。コメントいただいた皆様、そして読んでくれた皆様、ありがとうございます。


創作活動は読んでくれる人がいるからこそ成り立つ活動だと考えているので、ニーズがあるのであれば書こう!と思いました。そんな訳で不定期連載ですが気の向くままにちょいちょい更新していきます。(というか自分も書いてて楽しい)


引き続き楽しんでくださいませ!


2024年1月20日 けーぷ

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