第114話

南極エイトケン盆地ダンジョンにコロニー落としが実行されてから約1時間後。コロニーの落下に伴い発生した大爆発や地震により発生していた月の砂レゴリスによる砂嵐もようやく落ち着きはじめていた。


なお落下点の詳細な様子はその砂塵によって確認することが当初は出来ておらず、三崎達は南極エイトケン盆地ダンジョン直上の月静止軌道上で様子を見守っていた。そして砂塵が晴れるに従って段々と判明してくるその威力の前に三崎達は呆気に取られていた。


「…しかしまぁ、改めてコロニー落としの迫力ヤバいな」


「そうですね。シミュレーションで威力は理解しているつもりでしたが実際に目の当たりにするとちょっと引きますね」


「マスター、これは多分まじでやっちゃだめなやつだと思うよ」


コロニー落としのあまりの迫力と、そしてその威力の全容が判明してくるにつれて三崎達も自分たちが比較的気軽にやったことのインパクトを再認識しはじめていた。普段は陽気なアルファ2も真顔で三崎に忠告するほどである。


”確かにこれはヤバイな…”

”この威力、一瞬顔が真顔になったわw”

”神の杖はまだかわいいもんやったんや…”

”これ、三崎 VS 人類とかないよね?w”

”おいバカやめろ、まじで洒落にならんw”


コロニー落としの様子を見守っていた地球のリスナー達もその威力に背筋が寒くなっていた。毎度毎度三崎はやべーやつだと思いながら配信を楽しんでいたはずなのだが、巨大ロボや宇宙戦艦のような現実感があまりない装備にくらべてコロニー落としのような圧倒的に巨大な質量兵器はイメージがしやすいぶん、リアリティをもってその威力を想像できたのだ。


そんな状況の中、三崎自身も内心で「コロニー落としは今後は封印」と思いながらも各種の状況確認を進めていく。


「アルファ3、状況はどうだ?」


「まだ砂塵の影響が若干残っているので各種レーダーや通信網が完全復旧はしていないのですが、概ねシミュレーション通りの結果が得られているようです。南極エイトケン盆地ダンジョン地上部の構造物は大方破壊されています。コロニー落下点から半径200km程度はクレーターになっているようですね」


”半径200kmのクレーターw”

”文字通り月の地形が変わったな…”

”ちなみに東京ー大阪間が直線距離で約400kmな”

”ということは…”

”コロニーが落ちると東京-大阪間が全部消滅する”

”…マ?”


砂塵が晴れるに従い観測されるコロニー落としの結果。コロニー落下以前は比較的起伏があった月の表面がかなり綺麗さっぱりしていることが見て取れた。


南極エイトケン盆地自体が直径2500kmにもおよぶ巨大な盆地ではあるが、その巨大な盆地の中にはっきりと分かるレベルで巨大なクレーターが出来上がっている。そしてその中心部に突き刺さるコロニーの残骸らしきもの。


通信が回復するにつれてコロニーだったものからの各種データが三崎たちの手元にも届き始める。コロニー先端部に設置されていたカメラからの映像を確認すると、コロニーが南極エイトケン盆地ダンジョンに直撃する直前まで数多のモンスターがそれを阻止しようと奮闘している様子が記録されていた。


さながらア◯シズを止めようとするモ◯ルスーツのようにモンスターたちがコロニー先端部に張り付き、あるものは吹き飛ばされ、そしてあるものは最後まで抵抗したもののコロニー落下の際に圧殺されていた。


”モンスターさんたちの必死の抵抗が”

”これ見るともはやどっちが敵役なのかわからないなw”

”ちょっと可哀想になるレベル”

”モンスターも必死で抵抗するとかあるんだな”


そしてコロニーが月面に直撃した後、地上部の構造物やモンスターが一瞬で消滅していくのと同時にダンジョン中心部となるアントニアディ・クレーターの地下構造物にもコロニーがめり込んでいく様子が映像に残されていた。そしてその直後に発生した大爆発ともにコロニーからの映像は断絶している。


「…映像からも確認できたけど地下の構造物までしっかりダメージが通ってるみたい。これでかなりダンジョンコアまでのアタックが楽になっているはず」


映像とともに各種レーダーの値を確認していたアルファ4もその確認結果を三崎に伝える。コロニー落としの効果を確認した三崎達はそこからさらに無数のドローン群を月面に向かって放出して索敵を実施していた。


なおモンスター群の動きは沈静化しており、コロニー落としによって地下部含めて相当数のモンスターを狩り尽くしたことも確認。


そしていよいよレゴリスの嵐が落ち着き、ドローンによる索敵も完了した段階で三崎たちの艦隊は月面への降下作戦を実施しようとしていた。


まさにその時、南極エイトケン盆地ダンジョンの中心部、アントニアディ・クレーターからこれまでに観測されたことがないレベルの魔素が噴出し、


「オオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」


咆哮とともに超大型の人型らしきモンスターが出現した。

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