第113話
コロニーレーザーによって綺麗さっぱり片付いた月への軌道上を三崎艦隊とそれに牽引されるコロニーが静かに、だが圧倒的な威容をもって突き進む。
南極エイトケン盆地ダンジョンへコロニー落としを決行するために艦隊とコロニーは随時速度や角度などを調整しつつも可能な限りの全速で侵攻しており、その速度は今までの比ではなかった。
そんな中で三崎艦隊の旗艦の司令官席で状況を確認していた三崎も随時アルファ達に確認を進める。
「アルファ、状況は?」
「予定通りのコースを進んでいます。このままでいくとあと1時間ほどで月の周回軌道へ入ることができます」
「おっけー。その後も予定通り行けそうか?」
「はい。コロニーは月周回軌道に到達後、ぐるっと月の周囲を一周しながらその高度を徐々に下げていき南極エイトケン盆地ダンジョンに直撃する想定です」
”コロニー落とし、マジでやるのかw”
”会話の内容がエグいw”
”モンスターさん達逃げてー!!”
”これ、月そのもののの座標とか位置とかずれないよね?w”
”そんな事になったら地球にもかなり影響出るぞw”
粛々と進められる月へのコロニー落としの準備を見ていたリスナー達から不安な声も出てきていた。地球は月引力の影響を強く受けており海の満潮/干潮のタイミングと月の位置の関係性はよく知られている。その他、仮に月の位置や地軸などがずれると実際問題として地球にどれだけの影響が出るのかは予測がつかない程だ。
これはさすがに一言補足しておいた方が良さげと思った三崎は念のためその辺りについてもざっくり説明しておくことにした。
「念のため言っておくと今回のコロニー落としでは月そのものへのダメージと言うか影響はほとんど無い想定です。何度かシミュレーションも繰り返していますが、今回の質量程度では月はびくともしないので安心してください」
「私の方からも補足しておくと、月の質量は約7千京トンといわれています。この重さは地球の約80分の1のサイズですね。そして今回利用するコロニーの質量は数十億トン程度です。要するに月の質量に対して百億分の1以下ですね。その重量比からも月自体への影響は殆どないと考えています」
”なんかそれっぽい説明出てきた”
”宇宙にきてから数字の桁が毎回意味がわからない”
”まぁアルファさんが大丈夫というのであれば…”
”我々本職の天文学者、ガチで慌てて諸々計算中w”
”ガチ勢きたw”
”マジで頼むぜw”
三崎とアルファが軽い説明をしているなかでも刻一刻と三崎艦隊とコロニーは月へ近づいていく。
・ ・ ・
そしていよいよ月への周回軌道が近づいてきた。コロニーレーザーによって片付けていたモンスターも再び出現していたが、その圧倒的な大質量のコロニーを前面に押し出した三崎達によりその尽くが吹き飛ばされていた。
”理不尽すぎるw”
”モンスターの壁が粉砕されていくw”
”コロニーも結構攻撃受けてるけど、落とすこと考えたらそこまで気にしなくて良いのか”
”むしろスピード落とす方が良くないからこれで良いんじゃない?”
爆走するコロニーに弾き飛ばされたり圧殺されていくモンスターを傍目にいよいよ三崎達は作戦の最終段階に入っていた。
「よし、じゃあ最後におさらいな。このままコロニーが月周回軌道に入ったらコロニーと艦隊は分離。コロニーだけ月を一周させてから月に落とす。俺たちの艦隊は静止軌道上で待機。コロニーが月に落下してから1時間ほどはそのまま静止軌道上で様子を確認する。砂塵が落ち着いてきたら艦隊まるごと降下作戦を決行する」
三崎からの言葉を引き継ぎつつアルファも説明を補足する。
「静止軌道上ではモンスターからの攻撃を受けることになると思うので状況に応じて迎撃します。またコロニー落下後の月はいわゆる月の砂、レゴリスが大量に舞っている状態になると想定され機体や通信などへの影響が懸念されるのでその辺りの対策も各自抜かりなく対応するように」
南極エイトケン盆地ダンジョンへのダンジョンアタックに向けて最後の確認を進めていく三崎達。その後の手はずや準備なども進めていく。
そしていよいよ
「マスター、月周回軌道へ到達しました。いつでもどうぞ」
「おう。ではやろうか。これよりコロニーを艦隊から切り離し月への自由落下を開始させる。総員、第一種戦闘配備。各艦隊とコロニーの牽引索をパージしろ」
「パージ完了。各艦、コロニー近傍から離脱します」
「よし、じゃあ最後に手はず通り調整用にコロニーのエンジンをブーストして自由落下させてくれ」
「承知しました。コロニーのエンジンを噴射。…入射角度の調整に成功。このまま目標座標まで自由落下します」
その日、巨大なコロニーが月の空を切り裂き、そして南極エイトケン盆地ダンジョンを破壊の嵐が襲った。
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