第82話

ダウンした三崎の様子を警戒しつつ伺っていたウォードは、三崎の指先がぴくりと動いたのを見逃さなかった。


「まだ動けるのか」


『探索者としても充分以上に頑丈ですね』


あれだけボロボロになっていてもまだ意識を失わず動こうとする三崎を見て、ウォードとオメガは純粋に驚いていた。


そして震える腕でなんとか上半身を起こそうとしている三崎に対して


「三崎さん。警告です。それ以上動かないで下さい。さすがに私もこれ以上ボロボロのあなたを撃ちたくない」


”三崎…”

”もはやここまで…”

”まさか三崎が負ける日が来るとは…”

”正面から戦えば絶対勝てる!!!だから負けてないぞ!!!”

”戦う環境を整えるのも勝負の内でしょうよ…”

”この金髪は気に入らないけど、全部含めて金髪の勝ちだな…”


ボロボロになってもなお動こうとする三崎を見て、そしてその三崎に対して油断なく構えるウォードを見たリスナー達もついに終戦モードになっていた。


しかしそんな周囲の雰囲気を全く気にすることもなく、なおも三崎は立ち上がろうとする。


それを見たウォードは「仕方がないですね」と小さく呟いて、とどめの一撃として中級の炎魔法を放つ。これで三崎を殺さずに無力化できると思いながら。


誰もがその攻撃で三崎が完全に倒れ、決着がつくことを予想していた中、


「な!?」


”え?”

”ん?”

”ほう…!?”

”これは!?”

”ついに覚醒キタw”


ゴウッッッッと突如三崎の周囲に強い風が吹き荒れると、ウォードが放った炎魔法が掻き消えた。


三崎を中心に吹き荒れる風の勢いはどんどん増していき、さらにその風には様々な色の光の粒子が混じりはじめ虹色のベールとなって三崎の周囲を包みはじめる。


先程まで立つのもやっとの状態だった三崎は、今ではその虹色の嵐の中でしっかりと自分の足で立ち上がり、仁王立ちしたままウォードを強い目線で睨みつけていた。


状況が飲み込めないものの明らかに何か良くないことが起き始めていると悟ったウォードは慌てて深層級魔法を幾度も放つが、その尽くが虹の嵐に掻き消され、三崎にダメージを全く与えることが出来ない。


引き続き通信が遮断されている事を手元の端末で確認し、三崎がロマン武器を利用できない状況であることを再確認したウォードは、そのあまりにも理不尽な力の奔流の前に呆然としていた。


「今度は何なんだ…」


『ボス。あの風は魔素の流れそのものです。未だかつて見たことがないレベルの濃度の魔素の流れになっています。濃度が高すぎて色づいて見えるようですね』


”魔素ってあんな色してたんだ?”

”というか普通に見えるようなもんなのか?”

”いや、普通はみえない”

”三崎はリフボードの時は何かの測定機器使ってたみたいだし”


幻想的な虹色の嵐に呆気にとられていたリスナー達も色々と考える中で、オメガが正解にたどり着く。


『ボス。照合する事象が確認できました』


「…聞きたくないけど、聞かせて」


『肉眼で観測できるほどの魔素の奔流。歴史上で何度か観測されたことがありました』


「…それで?いつ観測されたの?」


『…超深層探索者の誕生時です』


その言葉を聞いたあまりにも理不尽な展開にウォードは天を仰ぎ、リスナー達を含めた世界中が湧いた。


”超深層探索者!!!???”

”なんてこった”

”マジで覚醒だったw”

”三崎の配信を見てると定期的に歴史の証人になれるなw”

”世界で5人目の超深層探索者w”


超深層探索者。それは世界でも4人しか確認されていない最強の探索者達の呼称である。


探索者は一般に上層探索者からスタートし、中層探索者、下層探索者となり、最後に深層探索者となる。


これらの上層から深層までは各国におけるライセンス制度に基づき各国や各組織がランク付けしているものであり、あくまで人間が決めたランクである。


そのため特に中層探索者から下層探索者の間や、下層探索者と深層探索者の間などは曖昧な部分も実態としては多い。


しかし超深層探索者だけは違う。


シンプルに超深層探索者は他の探索者達とは隔絶した実力をもち、その証としてある能力を使えることが知られていた。


そしてその超深層探索者。世界にも4人しか現存していない超戦力であり、国家に属さず個人として国家と同等に振る舞う超存在である。


これらの存在があったからこそ、今までの三崎やウォードの無茶苦茶もある程度の反発で済んでいたといっても過言ではない。それ以上の理不尽な存在がこの世界には存在するのだ。


三崎の周囲に吹き荒れていた虹色の嵐がだんだんと弱まり、そして収束していくとそこには見かけ上は普段通りの三崎が立っていた。


自分の体を不思議そうにぺたぺた触ったり、手をグーパーしたりしていたが、


「なるほど、わからん」


などとアホの子のようなことを呟きながら


「とは言ってもね。やっぱお礼をしないといけないよな?」


と非常に良い笑顔になりながらその魔力を開放していくと、三崎が放出する魔力に侵食された世界が軋む。


超深層探索者。その唯一にして絶対の能力。


それこそがダンジョンエリア内に限定されるものの「現実を改変する能力」だった。己の心象風景をダンジョンに押し付ける超常の力である。


ダンジョンの中であればその環境を自身が望む形に作り変える。であるが故にその能力は「固有魔法」と呼ばれていた。


”おお、これが…”

”初めて見る…!!!”

”マジで固有○界的な感じになるんだなw”

”まんま某エ○ヤの覚醒シーンを思い出したw”

”俺もw”

”三崎の心象風景とはw”


配信の画面越しでも伝わる世界が軋む音を感じながらリスナー達のテンションも上がり続けていく。


そしてついに三崎が固有魔法を発動。


「固有魔法発動。デウス・エクス・マキナ!!!!」


一瞬で世界が作り変えられた。

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