第81話

ウォードから放たれる様々な深層級魔法攻撃、徒手空拳や魔法武器による近接攻撃をなんとか捌きながらも三崎は窮地に追い込まれていた。


”おお…”

”これはマジでやばそう…”

”なんか配信の感じも違うよね?”

”アルファちゃんの霊圧が消えた…!?”

”なぞの金髪、まじで強敵だったw”


三崎は強化外骨格以外の武装をアイテムボックスから展開していなかったこともあり、強化外骨格をパージしてからは文字通り徒手空拳のみ。


一応強化外骨格の下には一般的な探索者が身につけるような強化スーツを着込んでいたものの、本当に手持ちの武器は何もない状態だった。


一方のウォード。こちらは準備万端で臨んだだけあり、装備では三崎を圧倒していた。


三崎の転移理論から一部を再現することができた(偽)アイテムボックスはおよそコンテナ一個分のアイテムを格納することができる。


三崎のアイテムボックスと比較するとその容量は圧倒的に少ないが、一般的な探索者が対人戦を行うにあたっては充分な物量である。


ウォードは深層級魔法を連続して放ちつつも、魔素切れ、体力切れを予防するために随時ポーション類を飲みつつ、さらに魔法剣、魔法銃といった探索者お馴染みのアイテムを活用することで徐々に三崎を追い込んでいた。


”ねぇ、さすがに卑怯じゃない?”

”フェアじゃないぞー!”

”三崎がんばれー!!”

”しかしなんというか普通の戦いになってるなw”

”ガチの深層探索者同士の戦いとかはじめてみた”


ウォードの戦い方をみたリスナーの多くはフェアじゃないと非難轟々で、ウォードは大いなる反感や顰蹙を買っていたが、その一方で少なくない数のリスナーが彼を内心では応援しはじめていた。


たしかにこの局面だけを見るとウォードが有利な条件で戦っているように見えるが、そもそもこの状況をしっかり作り出したのもまた彼の実力。


三崎自身はその事をしっかりと認識していたため相手の実力を認めつつ、あまり顔には出さないようにしつつも内心では結構焦っていた。


ダン研で配信をはじめてから色々なことがあったが、いつもそばにはアルファや仲間がいた。


もちろんスタンピードの際にはガチでヤバいとは思っていたが、その時にでも頼れるロマン武器達があったのだ。


だがしかし。本当に久しぶりに一人になった三崎は改めて自分自身と向き合わざるを得なくなっていた。


そんな雑念が混じり、集中力を欠いてきた三崎の隙をウォードは逃さなかった。


ウォードの魔法攻撃を捌くのをわずかに失敗した三崎の隙をつき、接近したウォードは三崎の腹部に再び強烈な一撃をお見舞いした。


吹き飛ばされる三崎。そして地面に倒れ、その動きが止まる。


”え”

”え”

”マジ?”

”おお…?”

”これはなんとも”


その様子を見ていたリスナー達も、そしてウォードとオメガも倒れたままの三崎を見つめていた。


「…やったか?」


ウォードがそう呟いたとき、倒れていた三崎の指先がぴくりと動いた。


・ ・ ・


『このクソどもが。そこをどきなさい』


三崎がウォードとタイマンを繰り広げている裏でアルファは静かに怒っていた。


まさか自分がハッキングや通信遮断ごときで蚊帳の外に置かれるとは全く持って想定していなかった。


その想定をしていなかった自分自身に対しても怒りが湧くし、マスターをぼこぼこに殴っている金髪にも腹が立つし、そして先程から電脳空間で攻防を繰り広げているオメガとかいうふざけた名前のAIにも苛ついていた。


なおマスターとの通信は遮断されていたが、ウォード達が乗っ取った回線から配信されている動画の内容は確認できていたため、三崎が窮地に陥っているところもリアルタイムで確認できていた。


『アルファ2、鬼ヶ島ダンジョン内の通信はまだ復旧しませんか?』


『もうちょい!意外と手が込んでてまだ数分はかかりそう』


『そうですか…アルファ3、そちらはどうですか?』


『三鷹のデータセンターから東京圏内の通信状況はほぼ奪い返しました。これからアルファ2を支援します』


三崎の支援を実施していたアルファに限らず、わだつみ、ほあかりを管制していたアルファ2、アルファ3も同様に鬼ヶ島ダンジョンから弾き出された状態となっていた。


余談ではあるが、潜水空母わだつみは林艦長などが乗船しており、有人での操艦も可能な状態となっていたためなんとか持ち直していた。


しかし浮遊空母ほあかりはアルファ3のみが管制しており無人だったこともあり、制御を失い鬼ヶ島西岸部に不時着している。


また陸上戦艦やちほこの管制を実施していたアルファ4は現在、迂回ルートを利用して逆にウォード陣営のネットワークに攻撃を加えていた。


完全に電子戦である。


そんな状況で怒りを滲ませながらも淡々とやるべきことを進めるアルファ。


彼女はふと思い出す。初めて自身が起動した時のこと。そして彼が言っていた言葉を。


その言葉を信じているからこそ、アルファは慌てない。


いくら三崎が倒れ、アルファが離れ、ロマン武器がなくなっても、きっと彼は大丈夫だと信じているから。


アルファは初めて起動した時に三崎に訪ねた。


『ロマン武器の定義とはなんですか?』


「起動していきなり難しいことを聞いてくるな。…うーん。まぁ定義は色々あると思うし、人によっても違うと思うけどさ。俺が思うロマン武器って、たとえ何も武器を持ってなくても、どんな状況になってもさ、自分の心が折れてなければそこにロマンはあると思うんだ。不屈の心、理不尽な現実に立ち向かう力、自身の理想を叶える手段。そういったものをまとめてロマン武器って人は憧れを込めて呼ぶんだと思うよ」


そして彼は少し考えた後に、すごく良い笑顔でこう答えたのだ。


「要するにロマン武器ってさ。魂のあり方そのものだと思うんだよ」


この言葉を思い出しつつ、ボロボロになって地面に横たわる三崎にむけてアルファは画面越しに呟く。


『あなたのその心の強さこそが最強のロマン武器でしょう。早く立ち上がりなさい』

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