第80話

ウォードに全力でぶん殴られた三崎は吹き飛ばされ、地面に転がりながらも確認を進めていた。


「アルファ、聞こえるか?…やっぱダメか。しょうがない」


地面に転がったまま禄に身動きもとれなかったため、身にまとっていた強化外骨格を物理ボタンを利用して緊急パージしはじめる三崎。


この物理ボタンの緊急パージは第1世代の強化外骨格には搭載していなかったのだが、ある日ふとアルファが呟いた『それ、私がいなかったらどうやって脱ぐのですか?』という極めてシンプルな質問を聞いた後に実装していたものだった。


「まさか本当に物理ボタンを使う日が来るとは…」


物理的なボタンや機構には当初は否定的だった三崎だったが、渋々搭載しておいてよかったと心から反省していた。


そんな状態で強化外骨格をもたもたと緊急パージしていた三崎にさらに追い打ちをかけるようにウォードがダッシュして近づいてくる。


そのまま地面に転がっている三崎を蹴り飛ばそうとするが、なんとか強化外骨格のパージが間に合った三崎が攻撃をガードしたがまたも吹き飛ばされる。


「ってぇな!」


空中で体制を立て直し、着地してウォードの方を睨みつけようとするが、


「げ」


眼前に迫る巨大な炎の弾を見て慌てて防御魔法を展開してなんとか受け止める。そのまま連続して放たれた攻撃魔法をなんとか捌きつつ、冷や汗を流す三崎。


「え、これはマジでやばいのでは?」


・ ・ ・


「オメガ、通信状況はどう?」


『鬼ヶ島周辺は完全に私の支配下に置くことができています。現在電脳空間で敵勢力と交戦中。お相手さんはものすごい勢いで怒っていますけどね』


三崎をぶん殴り、蹴り飛ばし、そして魔法攻撃を連続して叩き込んでいたウォードはオメガに状況確認をしていた。


オメガがいう「お相手さん」とやらは三崎の支援AIのアルファだろうなぁと思いつつ、オメガの楽しそうな様子をみてまだ暫くは大丈夫そうだなと判断する。


今回ウォードとオメガが仕掛けたのはシンプルに「ハッキング」および「通信の遮断」だった。


過去の三崎の配信から、アルファの本体は三鷹のデータセンターである事が分かっている。ということはである。三鷹のデータセンターと三崎の間の通信手段を断つとどうなるのか?というのが事の発端だった。


もともとウォードを始めとしたDARPAの面々はネットワークや仮想空間に関する技術力では世界最先端を走る。ただしハードウェアや現実世界のアレコレが絡むような技術に関しては三崎や日本のダン研が一歩リードしているという状況だった。


そこでウォードは今回の鬼ヶ島上陸作戦に先んじて、特殊部隊の面々の協力を得て鬼ヶ島周辺海域に特殊な通信妨害モジュールを敷設。1週間ほど各国の動きがなかった時期があったのだが、そのタイミングで実はこのような仕込みを進めていた。


さらに特殊部隊の面々が上陸したり、派手に戦っている中でも一部の工作班が地上部にも埋込み型の通信妨害モジュールを少数ながらも設置していた。


その他ダンジョン海域周辺でステルスモードで飛行する輸送機・通信機や、囮で使った潜水艦以外にも実は数隻、三崎とアルファすら見落としたステルス潜水艦をダンジョン海域外に潜ませていた。


これらの念入りな準備を完了した上での試作2号機での突入であった。まさにガチで勝ちに来ていたのである。


なおウォードをはじめとしたアメリカの面々は、三崎の各種装備の中でも「アルファ」と「アイテムボックス」の2つを最大の脅威として認識していた。


これらの脅威を無力化してしまえば三崎もただの深層探索者にすぎない。このような経緯からウォード達は、結果として世界初のダンジョンにおける「電子戦」を三崎に仕掛けた形になっていた。


「勝てるフィールドで勝負する」「勝てるフィールドが無いのであれば、勝てるフィールドそのものを作り上げる」これこそがアメリカがアメリカたる所以であり、ウォードもまた正しく覇権国家の一員として本気で三崎を倒しに来ていた。


その結果、アルファと三崎の通信を遮断することによって三崎はアイテムボックスの起動どころか、身につけていた強化外骨格すらうまく動かすことができておらずウォードたちの想定通りの展開になりつつあった。


なお配信はアルファから権限を乗っ取った上で継続している。これは「三崎が負ける」ところを世界に対して見せる必要があったためであり、大統領からの依頼でもあった。


さらにウォード自身も深層探索者であり、オメガの支援を受けた深層級魔法を連続して放ちつつ、ウォード側は(偽)アイテムボックスを利用することでポーションや探索者としての武器などをある程度手元に呼び出すことができていた。


ここまでは完璧に想定通りの試合運びである。万全の物量や装備を背景に、あとはシンプルに探索者同士の腕比べで三崎を倒すだけのところまで来ていた。

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